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なぜ子供たちはアンパンマンが大好きなのか? ~男子中学生ならこの夏、読んでおいて損はない本~

●アンパンマンはA母音が連発する

 アンパンマン。

 日本の子供なら誰もが好きなアニメになっている。これだけ有名なのだから、アンパンマンのアニメだけでなく、アンパンマンの本を見たことがあると思いきや、アンパンマンの本を見たことがない大人たちが圧倒的に多いのである。というのは、アンパンマンのターゲットは2歳から3歳児という非常に狭い客層であり、この年代にアンパンマンの熱狂的なファンるのである。

 童話というのはただ単に子供騙しの本ではないのだ。実は大人向けの本なのである。大人、特に母親が「この本は良い本だ」と判断しない限り、その童話の本を絶対に購入しないからだ。しかも子供の方も子供でありながら出来のいい童話を識別する能力があり、舐めてかかると見捨てられてしまうのだ。

 実を言うと『桃太郎』や『シンデレラ』というのは5歳から6歳がターゲットになっているのだ。この時期は脳の臨界期に当たっているので、この時期に読んだ童話というのは、記憶力のいい子なら大人になっても覚えているのである。ところが子供の脳は4歳で「記憶の消去」が起こるために、それ以前に読んだ童話を思い出すことができないのだ。だからこそ3歳児以下向けの童話は未開拓地であったのだ。『アンパンマン』はその未開拓地を開拓した非常に画期的な本なのである。

 『アンパンマン』の作者である「やなせたかし」が出て来る前に、この分野に挑戦した童話作家はいた筈なのだが、全ての作家が敗退してしまっている。その命運を分けたのは、「題名のネーミングセンス」にあったと言っても過言ではないのである。言葉をまともに喋れない1歳児でも「アンパンマン」だけははっきりと言える。なんでこんなことが起こるのかというと、アンパンマンはA母音が連発する単語だからなのである。

 「パパ」「ママ」など、子供が初めて覚える単語は、全てA母音が連発した単語なのである。子供にとってA母音を含んだ単語が一番言い易いのであって、アンパンマンはなんとA母音が3連発になっているのだ。因みに子供にとってE母音が一番難しく、子供に「エレベーターって言ってみな?」というと、大抵の子供たちが言い間違えてしまうのだ。

 しかもアンパンマンは、最初に「アン」と言い、次に「パン」というので最初の「アン」ガ強調され、その強調した状態で最後に「マン」というので、その響きが口の中に籠るのである。だからこそ子供は「アンパンマン!」ということに快感を覚えてしまうのだ。子供が「アンパンマン!」という度に、子供にとってh1度に3回キスをするような感じなので、乳離れし始めた子供にとってはオッパイ代わりになる非常に出来のいい単語なのである。

●子供向けの童話は絶対に勧善懲悪でなければならない

 童話というものは、5歳児から6歳児、2歳児から3歳児という2つのグループに大きく分かれるのだが、その物語の基本は絶対に「勧善懲悪」でなければならない。この基本を無視すると、子供はその童話に見向きもしなくなる。なんで子供が勧善懲悪が好きなのかといえば、自分が母親から育児をされている中で、いつも母親から「これは正しいこと」「これはやってはならないこと」を教え込まれるので、童話も勧善懲悪じゃないと駄目なのである。

 大人向けの小説なら「善人の苦難」や「悪人の栄え」があっても別に構わない。社会に出ていれば、善人であるかといって必ずしも幸福であるとは限らないからだ。世間で生きて行くためには、正義感だけでは駄目で、悪どい知恵も持たないと、とてもではないが生きて行けないのだ。しかし子供向けの童話なら、善人が絶対に勝たねばならないのだ。なぜなら子供は社会に出て行っていないからだ。

 例えば『桃太郎』はなんで鬼たちが悪いのかイマイチ良く解らない。鬼という設定が既に悪なのであって、だからこそ桃太郎は問答無用で征伐しに行くのである。もっとひどいのは『シンデレラ』の方で、シンデレラの母親や姉たちがシンデレラを苛めるのは、この母親が実の親ではなく、父親の再婚相手なのであって、姉たちもその母親の連れ子だからなのである。母親や姉たちはシンデレラを苛めるのに正当な理由があるからこそやっているのっである。しかし物語の中ではシンデレラが最終的に勝利し、母親や姉たちは勝利できないようにしなければならないのである。

 母親が子供に童話を読み聞かせたり、子供自身に童話を読ませる時は、是非とも童話だからといって馬鹿にしないで、自分でじっくりと読んでみることだ。面白いことに子供が「この童話は面白くない!」と決めつけてしまうような童話は、童話の基本を全く踏まえていないのである。逆に子供が「この童話は面白い!」と言い出す童話は、童話の基本をきちんと踏まえているのである。

 やなせたかしが登場して来るまで2歳児から3歳児向けの童話は空白地帯であったという事実を思い出して欲しい。なんでこんな現象が起こっていたのかというと、日本は第二次世界大戦で敗戦国になり、しかもポツダム宣言にも国際法にも違反する形で昭和憲法が制定されてしまったのだが、この憲法に書かれた戦争放棄を童話作家たちは童話の世界にまで広げて行ったのである。だから誰もまともな童話を書くことができず、空白地帯が出来上がっていたのである。子供は生きていれば喧嘩をするのであって、喧嘩が出て来ないような童話なんて見向きもしないものなのである。

●大人からアンパンマンを見れば

 この『アンパンマン』を大人が見るとどうなるかというと、主人公のアンアンパンよりも、バイキンマンの方が圧倒的に素晴らしいのである。アンパンマンといえば馬鹿の1つの覚えの如く、必殺技の「アンパンチ」でバイキンマンを倒すのだが、倒されるバイキンマンの方は何度倒されても反撃を仕掛けて来るのである。しかも前回よりも優れた武器を使ったり、新たな作戦を取ったりして、性懲りもなくチャレンジしまくるのである。

 でも自分は既に大人なんだから、なぜバイキンマンがアンパンマンに勝てないのかぐらい解る。アンパンマンがこのアニメの主人公だからということではないのだ。バイキンマンがアンパンマンに勝つためには決定的な或る要素が欠けているからこそ、何度やっても勝てないのである。

①誠意がない

 まずバイキンマンには誠意というものが全くない。「百才あって一誠なし」の典型例なのであって、悪行なら幾らでも思いつくのに、善行を何1つ思いつけないのだ。生きているとこういう人物は必ずいるのであって、そういう人物はどうやっても成功しないし、たとえ成功したとしてもその成功を持続させることができず破滅して行くことになるのだ。

②戦略戦術がない

 次に戦略や戦術といったものがないのだ。バイキンマンは機械に頼り過ぎているのだ。というか機械に関しては天才的な発明家であるのだ。しかしその機械を使ってアンパンマンを倒すまでには行かないのだ。なぜなら戦略や戦術がないからなのである。だからこそ何度攻撃しても負けてしまうのである、

 軍事学を使ってアンパンマンを攻撃するとなると、戦闘では圧倒的に強いアンパンマンに直接攻撃を仕掛けることを控え、その代わり、アンパンマンの頭を作るジャムおじさんの工場を空爆し、アンパンマンの頭を作れないようにすべきなのである。これを軍事学では「戦略爆撃」という。

 その後、バイキンマンはアンパンマンとの接近戦を避けながらアンパンマンの頭を破壊できるように遠方から攻撃を仕掛け、アンパンマンのパワーが落ち始めたら接近して行って、アンパンマンの頭を完全に破壊し、ついでにアンパンマンの体をも破壊しなければならないのだ。

③詰めが甘い

 はっきりと言ってしまうとバイキンマンは詰めが甘いのだ。アンパンマンは頭が破壊され死んでしまう生物ではなく、頭が破壊されても体は生き残っているという特殊な生物なのだ。バイキンマンはアンパンマンの頭と体の双方を仕留めないと、この戦いに決着はつかないのだ。「どんなに戦いが優勢に進んでもトドメを刺さない限り、戦いを勝利に終えることができない」という教訓をバイキンマンは負けながらも子供たちに教えているといっても過言ではないのだ。

●作者の自伝

 俺は漫画家が書いた自叙伝は大当たりだと思っている。漫画家はその仕事柄、右脳も左脳も満遍なく使うので、自叙伝を書かせると、実に面白い自叙伝を書いて来るのだ。『アンパンマン』の作者である「やなせたかし」の自叙伝も例外ではないのだ。矢張り面白いのだ。やなせたかし著『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)は一読の甲斐ありの本なのである。この自叙伝は居間の本棚にでも置いておいて、子供がアンパンマンを卒業したら読める環境を作っておくことだ。

人生なんて夢だけど

 この自叙伝を読むと、やなせたかしは講談社文化の中で育ったことが良く解る。講談社は「面白くてためになる」をモットーとしている出版社なので、講談社の本や雑誌はとにかく面白いしためになるのだ。『アンパンマン』も面白いしためになっているのは、子供の頃に講談社文化に親しんだからであろう。

 やなせたかしは54歳で『アンパンマン』の絵本を書き始め、71歳からアンパンマンのアニメ放送がされるという非常に遅咲きの人物なのである。なんでこんな遅咲きになってしまったのかというと、大学で受けた自由主義教育が原因なのである。大学では教授が「勉強ばかりしているな。銀座で遊べ」と教えたもんだから、その通りに遊んでしまったのである。だからこそやなせたかし自身が遅咲きになってしまったのである。あの時期は最も勉強する内容が頭の中に入って来るので、遊びをメインにしてしまうと、その代償は非常に高くつくことになるのだ。

 子供に夢を尋ねると「プロスポーツ選手」や「歌手」や「女優」など全部早咲きのものしか選んで来ない。子供の中で遅咲きの人生に憧れる子はいないものだ。しかし人生というのは早咲きの者たちばかりではなく、遅咲きの人生を歩む者たちも沢山いるのだ。自分が子供の頃に思っていた夢が叶わなかったからといって自暴自棄になる者がいるものだが、それは遅咲きの人物たちをよく見ていないからだといっていい。遅咲きの人生を知るためには、やなせたかしの自叙伝は非常に興味深い1冊であるのだ。

 人間の人生なんてパチンコ玉のようにあっちゃこっちゃ飛んでいくものなのである。自分の人生が自分の思い通りになるのは非常に少なく、それよりも様々な人たちに出会って、自分の人生が思わぬ方向へと発展して行くものなのである。そういう思い通りにならない人生に対して愚痴を言うのではなく、そういう凸凹の人生だからこそ楽しんでしまえばいいのである。そうやって人生を楽しんでいると、いつの間にか成功して行ってしまうのである。

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コメント

こんにちは、タマティーさん。
確かに、良い絵本は大人が読んでも楽しめますよね
子供向けに描かれているので長く出来ない分、限られたページの中に著者の思いや伝えたい事を入れなくてはならないので無駄がないというか
絵と文章が素敵だと想像力、創造力も養われるし。
図鑑も面白いですよね
子供の頃は絵本や自然に触れ、大人になったら良い仲間や色々な知識、知恵を蓄えて楽しい人生にしたいと思います。

物であれ、人であれ、自分が行動しないと出会えませんね

そういえば、ヨーグルト自宅で作ってみました!簡単ですし、美味しいです!
市販でされているのがいかに甘いのか分かりました、それでいて市販のプレーンは酸味が強くて。最近は、生のブルーベリーと蜂蜜で食べています。続けたいです
それでは失礼します

投稿: ぽんちゃん | 2011年7月29日 (金) 13時12分

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