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キキは本当に恋をしたのか?

●キキがした恋は恋愛ではなく相思性愛

 『魔女の宅急便』を読んで、もう1つ疑問に思うのが、「キキは本当に恋をしたのか?」ということなのである。なんせ第四巻の題名が『キキの恋』であり、第五巻のラストで「キキ」と「とんぼ」と付き合うことになるのだ。『魔女の宅急便』には第六巻もあるのだが、一応この第五巻が『魔女の宅急便』のクライマックスである。

  

 何事も最初が肝腎なのであるが、男女の交際も最初が一番肝腎である。男女の出会いを見ればそれが恋愛なのか恋愛ではないのか、一発で解ることになるのだ。原作では「とんぼ」はキキの箒を盗み、「とんぼ」はこの箒を使って空を飛ぼうとし、そして箒を壊してしまうのだ。ところが映画ではキキはとんぼに嫉妬し、その嫉妬によって魔法の力が衰え、無理矢理に空を飛ぼうしてキキ自身が箒を壊してしまうのだ。

 原作の方は主題に忠実であり、キキは魔女と自立して行く中で、男性である「とんぼ」によって、自分の母親から貰った箒が壊されてしまい、それをキキが自分で直すことになる。キキは自立へと歩み進めて行くのだ。だが映画では主題が何も解っていないのであって、キキは母親から貰った箒を自分で壊してしまうのだ。これではキキは自立できないのだ。事実、映画ではキキが「とんぼ」を助けに行く際に、清掃員が持っていたモップを借りて空を飛ぶことになるのだ。

 映画だとキキと「とんぼ」の関係が意味不明になってしまうが、原作をきちんと読んでいけば、キキにとって「とんぼ」は自分が魔女として自立するためには必要不可欠な存在なのであって、だからこそ「とんぼ」はキキのことを魔女だとしか見ていないのに、キキは徐々に好意を寄せ、最終的にはキキが魔女として本当に一人前になった時に、2人は交際することになるのである。

 この辺り、作者の角野栄子は非常に巧い物語展開をしているのである。

 しかしキキがした恋は「恋愛」ではなく、「相思性愛」というべきものなのだ。相思性愛は男女が互いに好きになってしまい、それで付き合ったにすぎないのだ。「キキ」と「とんぼ」は交際できたとしても、決して「運命の出会い」ではないのだ。運命の出会いを引き起こす恋愛なら、友達関係が発展して恋愛になるということはないのだ。

 恋愛は或る日突然にやってくるものなのである。

●ケケに対する設定ミス

 なんでキキは恋愛ができなかったのか?

 それはキキに親友がいないからなのである。

 多くの女性たちは女性が恋愛をするために必要なのは「男性」だと思うことだろう。しかし女性が恋愛をするために必要なのは「彼氏」ではないのだ。「親友」なのである。女性が時間をたっぷりとかけて親友を作り、親友との間に「永遠の友情」を作り出してしまうと、その後「初恋のチケット」を貰うことができる。

 なぜだか解らないが、親友と「永遠の友情」ができた後に、突然に運命の出会いとなる男性が現れて来るのである。

 キキにとって自分の親友となりうる人物は「ケケ」しかいない。ケケは「もう1人の魔女」なのであって、キキはこのケケと親友になり、永遠の友情ができると、運命の出会いとなる男性が現れて来る筈だったのである。ところが作者はケケを同い年の魔女にせず、年下の魔女と設定してしまったのだ。

 これが『魔女の宅急便』の致命的なミスなのである。

 作者としては、ケケはキキの幼い部分を象徴する人物として最初登場させている。キキはケケの勝手気儘な行動に翻弄され、醜い自分を曝け出すことになる。それなのに年下のケケが使う魔法はキキの魔法よりも実力が上で、キキとの別れのシーンでケケはキキと同い年の子かそれ以上の子になっているのである。

 なんでこんなへんてこな話になっているのなかといえば、作者は第一巻で「1つの町に1人の魔女しかいてはいけない」という魔女の掟を定めてしまったために、ケケは最初から魔女の掟を犯す「悪い魔女」なのであり、その後、自ら「半分魔女」と名乗るような中途半端な魔女になってしまったのである。

 作者はキキに「そういう魔女の掟は守らなくてもいい」と言わしてめているのだが、それでも魔女の掟は魔女たちが守らなければならないものだから、最終的にケケは追い出されることになるのだ。そんな魔女の掟を作らなければ、ケケを登場させた第三巻ではケケをキキのライバルとさせ、その戦いの中で親友となり、永遠の友情を築き上げて行くことができたのである。

●とんぼの冒険旅行の不発

 キキには親友がいない。だからキキは恋愛をする資格はないのだ。だからこそ、キキは第四巻以降、「とんぼ」以外の男性から誘われる機会はあったのに、全て自分で壊してしまい、「とんぼ」の方を選んでしまうのである。親友と永遠の友情を築いていないからこそ、その後に運命の出会いとなる男性が現れてこないのである。

 それなのに第四巻では「とんぼ」が冒険旅行に行くのである。男性にとって自分が一人前になるためには必ず冒険旅行に行かなければならない。作者はそれを解っているからこそ、「とんぼ」に冒険旅行へと行かせるのである。ところがこの冒険旅行が不発に終わるのである。

 「とんぼ」もキキと同様、師匠がいないし、親友がいないのである。

 師匠から教えを乞い、あれこれ指導して貰っていないから、よりによって冒険旅行の行き先が学校の近くにある「雨傘山」なのである。この時点で「とんぼ」の冒険旅行は巧く行かないということが解る。男の子が冒険旅行に行く際は、自分が生まれ育った場所から離れた場所へと冒険旅行に行くものであり、学校の近くでは話にならないのだ。

 しかも「とんぼ」がせっせと冒険旅行をしているのに、その雨傘山にキキが行ってしまい、そこでファーストキスをしてしまうのである。冒険旅行というのは「女人禁制」なのである。女性を排除し、男の子たちだけで冒険旅行をするからこそ、自分の実力を思う存分試すことができ、それによって自立していくことができるのである。

 「とんぼ」の冒険旅行が不発に終わったからこそ、「とんぼ」はすぐさまキキの所に戻ってこないし、第五巻のラストでは待ち焦がれたキキに対して「虫の話」しかしないオタクぶりを曝け出して来るのである。そしてキキは「とんぼ」から逃げ出してしまうのだ。そりゃそうだろう。「とんぼ」は男として自立していないから、キキと恋愛をすることなどできないのである。

●偽りの上位自我

 女の子たちがなぜ恋愛に憧れ、恋愛をしたいと思うようになるのか?

 それは自分の心の中にある「偽りの上位自我」を破壊するためなのである。

 女の子は成長過程に於いて「上位自我」を形成する。母親からちゃんと育てられれば、母親の物真似をするようになるのだ。「おままごと」をするようになれば、しっかりと上位自我が形成されたことになるのだ。上位自我こそ「良心」を作るのであって、良心があるからこそ、親があれこれ命令しなくても、自分で良い行動を取ることができるのである。

 しかし中学生以降になるとその上位自我が「偽りの上位自我」になり、自分自身を苦しめることになるのだ。中学生や高校生の子が「自分の心の中にもう1人の自分がいる」と言い出すのは今まで機能していた上位自我が「偽りの上位自我」になったのであり、自分なのに自分が自分でないのだ。明らかに自分の心の中に他人がいるのである。

 この偽りの上位自我を破壊するのが「恋愛」なのである。

 男の子は父親と長く接していない分、上位自我の形成が弱いのである。このため青春時代になって冒険旅行に出かけ、その冒険旅行の戦いの中で偽りの上位自我を破壊して行くことができるのである。ところが女の子は母親と長く接しているために、上位自我の形成が強いのである。だから女の子同士で友情を温め合い、自分の偽りの上位自我を破壊してくれる男性を見つけ出す「知恵」と、それを受け止める「愛情」と「共感」を恋愛が起こる前までに用意しなければならないのだ。

 女性が男性と恋愛をして、偽りの上位自我が完全に破壊されてしまえば、もうすぐに結婚してしまう。完全に破壊しなくても、大破程度でも結婚へと踏み切って行くことだろう。恋愛中に完全に破壊できなくても、この男性であるならその後必ず破壊してくれると思えば、もう独身であることをやめて、結婚しようと決意するものなのである。

 女性が結婚式の際に、両親に対して涙ながらに感謝の言葉を述べるのは、偽りの上位自我が破壊され、親から自立できたからなのである。女性が自立するというのは、非常に痛い行為なのである。体が痛いのではないのだ。心が痛いのである。そうやって心の激しい苦しみを経験しないと、女性は親から自立していくことはできないのだ。

 『魔女の宅急便』ではキキは恋愛などしていないし、偽りの上位自我を破壊していない。だからこそ、第六巻が必要になってくるのだ。その第六巻でもキキは未熟な母親として描かれ、自分の娘や息子の対応が拙く、そのために娘は反抗し、息子は憂鬱になり旅に出てしまうのだ。

●どうしても成就することのない女子中学生の片思い

 確かにキキは魔女としては自立した。しかし女性としては自立していないのである。作者の角野栄子は『魔女の宅急便』の主題に関してはきちんと果たした。しかし魔女ではなく、女性としてのキキが女性としては自立していないという非常にへんてこな書き方をしているのである。

 なぜか?

 まず言えるのは作者が『魔女の宅急便』の中で最重要人物であるケケの設定を間違えてしまったことなのである。

 もう1つはこの『魔女の宅急便』の主な読者対象が「女子中学生」であるということなのである。

 女子中学生は相思性愛をすることはできても、恋愛をすることなどできない。女子中学生では親友ができないし、親友ができても永遠の友情を築き上げる所までには行かないからだ。中学生の時は友達同士で群れているものだし、その群れがばらけて、1人の親友ができ、その1人の親友と深い関係を築くのは恐らく高校生になってからなのである。

 しかし女子中学生であっても片思いはする。好きな男性ができることだろうし、おマセな子なら男性と交際してしまうことだろう。だがその片思いは実らないものだし、その交際が巧く行くことはない。自分自身が未熟だし、相手の男性だって未熟なのだ。どのように付き合ったとしても、最終的には別れて行くものなのである。

 ということは女子中学生にとって片思いや男女交際というのは成就することがないのだ。だからこそ、その欲求不満を少女文学で解消するしかないのだ。現実世界では無理なものでも、少女文学の中では「未出現の宇宙」として広がり、その成就することがなかった思いを文学の中で晴らして行くことができるのである。

 もしもケケをキキと同い年の魔女にし、キキがケケと親友になり、その後、「とんぼ」以外の男性が現れて来たのなら、キキはその男性と恋愛をし、偽りの上位自我を破壊できたことだろう。こういう物語であったなら、この『魔女の宅急便』は少女文学扱いされず、第一級の文学作品として評価されたことであろう。

 大人の女性が読むような恋愛小説であるなら、恋愛をあれこれ描いて行くことは可能だ。しかしそれを女子中学生に対して行うことは果たして正しい行為なのかという疑問が常にあるのだ。というのは恋愛は自分が体験してみない限り絶対に解らないことだからだ。読者が解りもしないことをあれこれと教えるべきではないのである。

 とするなら、作者が『魔女の宅急便』の第三巻のラストで夜空の中を疾走するキキに言わせているように、「とんぼさんが好き!」という激しい感情の方こそが大事なのである。自分が好きと思える男性に対して、素直に「好き!」と思える感情を出せるのなら、後は自分の努力次第でなんとかなるものなのである。全てを教えてしまえば、女子中学生は頭でっかちになるだけなのであり、それでは恋愛をした時に恋愛が巧く行かなくなってしまうものなのだ。

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コメント

タマティーさん、こんにちは。
昨日か一昨日の夢になんと
タマティーさんが出てきました!

姿は出てこなかったのですが、
タマティーさんがアイドルグループを
結成し、有名なヒット曲のカバー曲を出して
売れてしまい成功するという内容でした。

私の頭の中は一体どうなっているのでしょう
四六時中不思議な夢や変な夢を見ています。
下らないお話ですいません。

二人目が欲しくて、いつも妊娠を
期待するのですが今回も生理が
来てしまいました
そもそも外出しなので出来ないかなあ…
その前に結婚ですが(笑)

私は生理が重い方で、量が多く
1〜2日目は痛みも強くて毎回憂鬱ですが
唯一、生理中は毎日排便があるので
日に日に体が軽くなる感じで気持ちいいです。
生理中以外でも毎日出るといいのですが(ノ_・。)

早く、可愛い子供を沢山産んで育てたいです。
仕事より子育てをしたいです。
こんな私でも女であり母なんですよね。
早く、結婚して男の子と女の子産んで
幸せになりたいです。。。

投稿: りあ | 2012年1月18日 (水) 10時46分

タマティーさん、こんにちは(*^_^*)妊娠時貧血でこちらのブログが目に留まり、興味深く読ませて頂いてます!
ひとつ質問をさせて下さい!
今38週でもうすぐ出産なのですが、妊娠初期からわきの下とふとももの付け根が汁が出て、やたら痒いんです(T_T)アトピーもある為、妊娠中悪化だから…と我慢していましたが、先日わきの下のあまりの痛みにステロイドを塗りました。

妊娠中には体温が上がるので、老廃物の排泄が進むんだと分かっていても保湿でどうなるものでもなく、就寝前は蒸れて痒くてたまりません(>_<)薬を使っても一時的なのは経験上分かります。このまま出産し終わるまで我慢しかないでしょうか?

排便は大体1日一回出ますが、たまに2、3日空いたりもします。朝食を取らないと出ない感じがします。

投稿: のん | 2012年1月18日 (水) 11時54分

 りあさん、タマティーの職業バレちゃいました?
 去年の紅白歌合戦では着ぐるみを着て登場したので、バレないと思っていたのですが・・・
 芦田愛菜ちゃんが階段でこけそうになってビックリしてしまいました。

 というか、りあさん、結婚したければ毎日ウンコをしろ!
 
 毎日ウンコをするためには、糠漬けを食え!
 それと今の時期はキンピラゴボウでも作って食べることですよ。
 毎日ウンコを出すためには、穀物をしっかりと食べること!

 ウンコが出ない場合は、「センナ」を煎じた物を飲めばいいですよ。

 多分、糞詰まりになっていると思うので、今は太らないけど、その便秘が重なると確実に太りますよ。
 「りあデラックス」に改名することがないように。

投稿: タマティー | 2012年1月18日 (水) 17時53分

 のんさん、妊娠中なんだから、ステロイドの使用はやめましょいよ。
 ステロイドが皮膚を通って胎児の所に行っちゃうんですよ。

 とはいっても痒くて眠れないのも問題ですな。

 あの、サウナに行って汗を流すってのはどう?
 汗を流せば、体内の老廃物や毒素が流れ出るので、結構効くと思うのですが・・・。
 
 それと排便は毎日した方がいいです。
 朝食を取らないと出ない場合は、朝食を取った方がいいです。
 自分がベストと思える方法を探し出して、それを実行して下さい。

投稿: タマティー | 2012年1月18日 (水) 18時05分

アドバイスありがとうございます!ステロイドはまだ2日しか塗ってないですが、脇は少し治まっても他の部位の症状が悪化して来る気がします(T_T)ヘルペスの兆候みたいなのも現れて…今夜からまた塗らずに経過させようと思います。ホントキツいですが、出産したら少しは良くなる事を願って今は頑張ります!

食事や睡眠や生活用品は凄く気を付けていますが、運動不足なんですかね…。母親がもの凄いアトピーで子供の頃から注射でステロイドを入れていたみたいなので、私も簡単には治らないのかと悩んでしまいます(>_<)

投稿: のん | 2012年1月18日 (水) 20時11分

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