本物の人間になりたいのなら『徒然草』を読め
●随筆の良さは大人にならないと解らない
文学には「詩歌」「小説」「随筆」の三つのジャンルがある。この内、詩歌や小説の面白さは中学生や高校生でも解る。美的感覚や読解力があれば、中学生や高校生でもその面白さを理解することができるのだ。しかし随筆は違う。随筆の面白さを理解するためには中学生や高校生では無理なのである。
俺は中学生の頃、国文学の本を重点的に読んで行こうと決意し、国文学の本ならありとあらゆる本を読んでいった。『万葉集』や『古今和歌集』の面白さは中学生の俺でも理解できたのである。夏目漱石や芥川龍之介の小説の面白さも中学生の俺でも理解できたのである。
だが、随筆の面白さだけは理解できなかったのである。
そのくせ、高校の時の古文の授業では『徒然草』を平気で出してくるのである。『徒然草』の面白さは高校生が読んでも良く理解できない。古文の授業を受けているわけだから、その文面は理解できる。ただそれは文章を理解しただけのことであって、その中身をきちんと理解できたわけではないのだ。
なんで中学生や高校生では随筆を理解できないのか?
それは「人生経験」や「知恵」が不足しているからなのである。随筆はその作者自体、人生経験や知恵が豊富で、当然に読者に対しても人生経験や知恵の豊富さを必要とするのである。随筆は気楽に書かれているように見えて、実は内容が濃い物なのである。
このため高校の授業で『徒然草』を習ってしまうと、「『徒然草』ってこんな物か」と舐めてかかってしまい、大いに損をすることになるのだ。高校生が読むべき物ではない本を授業で無理矢理に教わっているのだから、大いに誤解して当然なのである。
●世捨て人だから見える物
『徒然草』の面白さを理解したいのなら、こちら!
荻野文子著『ヘタな人生論より徒然草』(河出書房新社)
この荻野文子さんは東進ハイスクールの講師で、「マドンナ先生」と呼ばれ、生徒たちから大人気を博している講師である。学校の教師で出来のいい本を書く人は滅多にいないのだが、予備校の講師となると本を書けば出来のいい本を書いてくる確率が高いのだ。それほど予備校の講師は勉強しているということなのである。
どうして高校の教師たちが『徒然草』の良さを理解できず、予備校の講師の方が『徒然草』の良さを理解することができるのかといえば、『徒然草』を良く読んでいるか読んでいないかの差がその結果となって現れてくるのだ。高校の教師は教科書で決められた所しか読まないが、予備校の講師は生徒たちを大学受験に合格させるために『徒然草』を全部読み、しかも熟読しなければならないからなのである。
『徒然草』の著者の兼好法師は単なる僧侶ではない。「世捨て人」なのである。鎌倉時代の僧侶は現在のよに戒律を守らない破戒僧ではなく、本当に戒律を守っている僧侶たちなのである。しかし僧侶と雖も寺院で働くのであって、僧侶として生きていれば、その寺院のシガラミに縛られてしまうものなのである。
ところが世捨て人は寺院に属さない以上、僧侶達以上に出家色が強いのである。だからその者が書く文章は或る意味「極論」であって、世俗に居る人々はその文章を良く読まないときちんと理解することができないのである。それゆえ『徒然草』をきちんと読んでいない高校の教師たちには理解することができず、予備校の講師のように熟読している者たちの方が理解できてしまうものなのである。
『徒然草』は兼好法師が書いてから、すぐさまベストセラーになった書ではないのである。兼好法師が書いてから約100年間は無視され続けた書であるのだ。それが江戸時代になって再評価され、井原西鶴や松尾芭蕉や本居宣長が大いに刺激し、江戸時代の≪文芸復興≫に大いに役立ったのである。
●世間は魔物である
兼好法師は世間が素晴らしいものなどとは決して見ていない。「世間は魔物」だと見切っているのである。人間は煩悩を持つ以上、その者たちが集まって形成している世間では余りにも愚劣なことが起こるのは当然なのである。兼好法師の凄さはそれを諦念思想で見ているのではなく、ブラックユーモアを伴いながら見ているということなのである。
だから世俗から離れることの大切さを説く。「名誉欲」「色欲」「食欲」は苦悩の源泉であって、幾ら満たしても満たしきれないものなのである。財産だって余りある財産は我が身に不幸を齎すものなのである。これらは不足しているから不幸になるのではなく、その欲望を持ち続けているからこそ不幸になるものなのである。
そうやって煩悩を捨て去ってしまえば、シンプルな生活で楽しく暮らすことができるのである。人間はそもそも衣食住さえあれば充分に楽しく生きていける動物なのである。それなのに欲望を膨らませすぎるからこそ、敢えて自分から進んで不幸になってしまうのである。
幾ら出家したからといって安全ではないのだ。出家した僧侶達の間でも愚劣なことは幾らでも起こりうるものなのである。理由は簡単で僧侶達だって寺院で小さな世間を形成するからなのである。煩悩を捨てようと出家した者たちであっても、寺院の中で煩悩まみれの人生を送ってしまうのである。
だから「世間を生きる知恵」を持つことが必要なのである。「世間を生きる知恵」がないからこそ人々は苦しんでいるのであって、在家か出家かではないのである。この世に生きている以上、誰かと関わり合いを持たねばならず、そのためには「世間を生きる知恵」が絶対に必要になってくるのである。
●極めることの大切さ
兼好法師が生きた鎌倉時代は貴族の世の中が崩壊し、武士や商人や職人達が勃興してくる時代なのである。このため兼好法師は平安時代を偲んで懐古趣味に浸りつつも、新しい世の中のために新しい生き方を提示したのである。
それが「物事を極めることの大切さ」なのである。
武士は戦争に勝たなければならない。商人はお金を儲けなければならない。職人は優れた工芸品を作らなければならない。それぞれ職業は違っても、自分の分野を極めていることには変わりないのであって、だからこそ物事を極めることの大切さを説いたのである。
人間はこの世に生まれた以上、必ず死ぬ。それなのに多くの人々は酔生夢死の人生を送り、自分が本当にしたことに着手しない。自分がすべきことをやらない理由など幾らでも作り出すことができる。しかしそんなことをしたって自分がすべきことができなくなるだけなのである。
自分が今生きている時点から物事を考えるのではなく、自分の死の時点から物事を考えていくようにすべきなのである。そうすれば時間制限がかかるのであって、自分が本当にしたいことを第一に定めて、その他のことは断念して、その一事に全力を集中しなければならないのだ。
『徒然草』が評価された江戸時代には、名君や能臣、豪農に豪商に名工が続出してくるのだが、彼等が『徒然草』から知恵を貰い、大いに発奮したからに他ならないのだ。『徒然草』は人間がどうすれば自分の人生を生き切ることができるのかを教えてくれたからだ。
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コメント
タマティさま
お世話さまです。ぱちゃです。
先日、息子の高校入学式に行って来ました。
学校では沢山の課題や厳しい指導をするので、家庭ではうるさいことを言わないで温かい居場所になって下さいと保護者へのメッセージ。悪役は学校がやってくれるそうで、たいへんありがたく感謝でした。
しかし、問題が。
タマティさまにお話すると整理がつくので、悩みにお付き合いください。
この学校は一年生から、学習カリキュラムを自分で選びます。
①国公立難関大学コース、②国公立私立コースです。
①コースは、週2英か数の発展演習があり野球サッカー等の部活にははいれません。テニス、ハンドボールはok。
②コースは発展演習がなく、部活の制限もありません。
うちの息子は②コースを選びました。なぜなら、②コースのテストの方が簡単だから内申点がとりやすいと塾の先生にアドバイスをもらったからです。
しかし、運と実力で特進クラスになり、入学式後のクラス毎の説明の際、このクラスは①コース30名、②コース10名の編成。成績の良い生徒を集めた。クラス内の順位も出すが、勉強時間の少ない②コースに①コースは負けられないと、刺激を受けてくれという説明に唖然。
まるで特進の②コースは当て馬か?と、気分を害しました。
授業時間が違うのに順位を出す。そしてテストも今年から同じ内容とのこと。
ならば②コースのメリットがないと、コース変更を依頼するも、変更はできないと拒否。
それでも特進クラスじゃない他のクラスはコース別なので変更できないのは当然だが、特進はミックスなので、なんとかお願いと食い下がり、検討してもらうことに。
息子もテストが同じ内容ならば、テニスかハンドンボール部で汗をながし、得意の英語を伸ばす演習をするために①コースに変更したいといっています。
担任は、①コースの演習は定期テスト科目が増える為、苦手な数学の勉強時間が相対的に減ることになり、意外な落とし穴になる点を指摘されました。
土曜日10時に最終意思確認を学校側に伝えることになりました。
そして本当にコース変更なら、月曜日、親子で学年主任に変更経緯説明面談とのこと。
タマティさま
眠れぬ夜を過ごしています。
特進クラスになった以上、そして定期テストのコース別難易度がないのなら、①コースで難解問題に挑戦するのが、志望校合格の道かと考えるのですが、担任の相対的に数学の勉強時間が少なくなる落とし穴発言を無視出来ません。
タマティさま
長々とすみません。
あと5時間で結論です。
タマティさまはどう思われますか?
投稿: ぱちゃ | 2012年4月 7日 (土) 04時34分
ぱちゃさん、安易な道を選ぶと、後でこういう面倒なことになるものです。
その学校がやっていることは意外と正しいです。
優秀な生徒たちを集めても、そのままだと逆に落ち毀れガ出てくるんです。
優秀な生徒たちを2つに分けると、双方が切磋琢磨して、落ち毀れガ出なくなり、全員の成績が上がっていくんです。
塾の講師が②コースを勧めたのは、勉強は塾でやればいいという考えがあったからでしょう。
こちらも言っていることは正しいんです。
今回の件は単に情報収集不足ですよ。
学校から配布されてくる物をよく読んでおくことです。
担任してみれば、面倒な作業が増えただけなので、面談の際は横柄な態度を取ると思うので、ご注意を!
感情的にならず、冷静になって対処することですよ。
投稿: タマティー | 2012年4月 7日 (土) 05時59分
タマティさま
早々にご返信ありがとうございます。
本当に私の確認不足で反省をしています。
そして無理な申し出に対応していただいて担任に感謝です。
担任の説明でクラス順位のくだりが出るまで、テストの内容はコース別だと信じて疑いもしませんでした。
テスト難易について大事なことを学校にお伺いしなかった私が本当に悪いです。
昨日の担任のとの電話の最後には、コース変更可能とは言えませんが、息子の意思をとにかく尊重してくださいとのことでした。
息子も眠れぬ夜を過ごしたはず。一夜明けての本人の気持ちを聞いてみます。
学校側にしてみたら、本当に迷惑な話ですよね。申し訳ないことになってしまいました。
タマティさま
お陰さまで気持ちの整理がつき、落ち着きました。
いつもありがとうございます。
投稿: ぱちゃ | 2012年4月 7日 (土) 07時42分
タマティーさま
この記事がでる数ヵ月前に偶然うちの夫が文庫本を買ってきました。
大学のときに読んで面白かったから、また読みたくなったとのこと。
私は、高校で習った以来で全く内容も覚えていませんでした。
マドンナ先生の著書ではなく新潮社のものでした。
またまた偶然にNHKの教育テレビで、『100分de名著 徒然草』が放送されていて、しかもマドンナ先生が解説だったのです!
これは、見ろという神のお告げ?なんて思い見始めたら、いやーおもしろい。
現代のビジネス書にも自己啓発書にもなるような本だったのですね。
見ながらメモを取ったのですが、気に入ったのが「上達論」
優先順位をつけよ→本当にしなければならないことを見つける
恥を捨てて人前に出よ
真似でも行動せよ
環境を整えよ
出来ない理想は掲げない
職業人
安心は失敗のもと
完璧は破綻の兆候
品性のある行いを
品性 内面を磨く
自分自身を知る
自分のいたらなさを知る
いやー兼好法師は、現代のビジネス書に再三書かれていることを鎌倉時代にとっくにわかっていたんですね。
もっと早くに読んでおけば良かった~と思う作品ですね。
投稿: 明子 | 2012年6月13日 (水) 22時24分