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与謝野晶子の知られざる名作『金魚のお使い』

●絵本作家の絶対条件

 絵本作家には絶対条件というものがある。それはその作家自身が結婚し、子供がいることなのである。ただ単に絵本を作るのではなく、自分が結婚し、子供を生み、育児をしながら、絵本を作って貰わねば困るのだ。絵本作家が独身なら、不気味な絵本しか作ってこないものなのである。

 では子供の数が多ければ良いのかというと、実はそうではない。子沢山の母親はまず童話を書かない。その理由は妊娠出産育児が快感だから、童話を書くという意欲が全くなくなってしまうのである。子沢山なら家事や育児が忙しいからというのが理由ではないのだ。

 戦前の女流文豪といっていい与謝野晶子は11人もの子供を生むのだが、実を言うと彼女は歌人として有名であるfが、童話も書いているのだ。この童話を書き始めた時期が重要で、まだ子供の数が少なかった時に書いたのだ。

 それが『金魚のお使い』である。

  きんぎょのおつかい

 与謝野晶子原作 高部晴市作画 『きんぎょのおつかい』(架空社)

 与謝野晶子は長男の「光」と次男の「秀」、そこに双子の娘たちである「八峰」と「七瀬」が生まれた時に、この『金魚のお使い』を書いているのだ。基本的には「光」と「秀」に読み聞かすために作ったのだ。与謝野晶子は20代で、双子の赤ちゃんの世話をしながら、閑を見つけてせっせと書いたのである。

 この『金魚のお使い』は売るために書いたわけではない。自分の子供たちに読み聞かせ、それが好評だったから絵本雑誌に掲載されたのである。読めば解ることだが、売るために作っていないために、読了感が非常に清清しいのである。与謝野晶子の母性愛がしみじみと感じられるのである。

 「優れた作家は童話でも名作を書く」というのがよく解る作品である。

●ナンセンス極まりない物語

 物語は新宿に住む「太郎」が、駿河台に住む「菊雄」さんちにお使いをやらねばならないという所から始まる。女中の「梅や」が病気のためにお使いを出せないので、弟の「二郎」が「金魚をお使いに出そう」と言い出し、それに太郎が同調し、妹の「千代」までもが賛同してくる。

 (なんで金魚なの? 二郎と千代! お前らがお使いに行けと言いたくなるのだが・・・。)

 金魚は「赤」「白」「ぶち」の三匹で、その三匹で新宿駅に行くのだが、「金魚には切符が要らない」と駅員から断られてしまう。金魚たちは愚痴を垂れ、不満を表現する。しかし駅員はなぜだか「行ってよろし」と言い出し、どうにかして電車に乗ることができる。

 いざ電車が発車しようとすると、三匹の金魚たちは大騒ぎをし、「水を持ってきて下さい!」と言い出す。駅員は車内を水浸しにするわけにも行かないので、金盥を持ってきて、そこに水を入れて、金魚たちが困らないようにさせるのである。

 三匹の金魚たちはどうにかして御茶ノ水駅まで行き、そこから駿河台の菊雄さんちまで歩いて出向くのである。三匹の金魚たちは無事用事を果たして、菊雄さんちではご褒美を貰うことになるのだが、手がないために郵便小包で送ることになるのである。そして金魚たちは帰って行き、新宿駅には太郎二郎千代の三人が出迎えに来るのである。

 実にナンセンス極まりない話なのである。本当に歌集『みだれ髪』を書いた作者がこんな童話を作ったのかと疑いたくなるのだが、これこそ与謝野晶子がきちんと母親になっていた証拠なのである。ナンセンスだからこそ子供は大喜びするのである。通常のナンセンスではダメなのである。ナンセンスも限度を越えてこないと、子供は喜んでくれないのだ。

●隠された知恵

 これは童話なので、黙読する物ではないのだ。とにかく音読してみて欲しい。子供たちの前で読み聞かせて欲しい。母親としては1回読んだ程度ではこのお話が何を言いたいのかよく解らない筈だ。とにかく3回以上読むべし。3回以上読むと、この童話の面白さがしみじみと解ってくるようになるのだ。

①幼い子供が外出するのは大冒険

 この童話で言う「金魚」というのは「子供たち」のことなのである。金魚のように可愛くて、金魚のようにか弱い。その連中がお使いに出るというのは大冒険になってしまうのである。お使いにやらしてもお使いどころかピクニックになってしまうのだ。

②子供でも言うべきことは言え

 金魚たちは電車の中で大騒ぎをして、駅員さんたちに助けて貰うことになるのだが、「子供だからこそ言うべきことは言わねばならない」ということを教えているのである。子供だからといって黙っていては解らない。子供だからこそ言わねばならぬことは言わねばならないのである。

③三人集まれば文殊の知恵

 子供のように人生経験のない者が1人で行動するのは危険である。三人いればどうかにかなるものなのである。金魚のやりとりが意外とリアルなのは、与謝野晶子は既に四人も子供を生んでいたからなのである。子供であっても、三人で話し合っていれば、生きていける知恵ぐらい見つけ出すことができるものなのである。

 この童話の隠された知恵を見つけ出さなければ、「なんなんのこのお話!」ってことになってしまう。それは読解力のないあなたが悪いのであって、この童話が悪いのではないのだ。これは飽くまでも子供たちに読み聞かせるものなのであって、母親の立場に立ってこの童話を読んでみることだ。

●母親にとっての教訓

 この童話は母親が冷静になって考えると、違う感想も出て来るのではないだろうか? 結婚していない女性が読んでも解らないことが、自分が結婚し、赤ちゃんを生み育てていくと解るようになるのだ。実を言うと、これこそが与謝野晶子の言いたかったことなのである。それは

 「子供のお使いは周囲が大変になる!」

ということなのである。子供のお使いはお使いとしての効率性を考えるのなら、別にやらなくてもいいのだ。自分がやってしまった方が早いし安全であるのだ。しかし子供に社会性を身につけさせるためにわざわざ子供をお使いに出すのである。

 その際、相手が子供なのだから、周囲の大人たちは余計な作業を負担しないと、子供たちはお使いの任務を果たすことができない。もしも周囲の人たちが「そんなの面倒臭い!」と切り捨ててしまえば、子供たちは社会性を持つことができず、将来的には犯罪者になってしまい、社会に莫大な損害を与えるようになってしまうのである。

 育児をする際、楽をしようという母親達は跡を絶たない。子供たちは常に母親の予想を越えることをやってくるのだから、それを楽しめばいいものを、なぜだか手抜きをして、怠けてしまうのである。それがために後になって大きな代償を支払う羽目になるのだ。

 育児は楽しいけれど、一時的に大変なことが起こるのである。それはしょっちゅう起こるのではないのだ。それは子供が成長したからこそ起こるものなのである。「育児は大変だ~」と騒いでいる母親たちは自分の力で子供の成長を押さえ込んでいるだけなのである。一人前の母親なら、時には大変になる育児も、それを充分に楽しめばいいのである。

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コメント

タマティー様こんばんは、お久しぶりです。
いつもお世話になっております。
本日も是非タマティー様に聞いて頂きたくて、ご相談をさせていただきたいと思っています。
現在妊娠38週になりました。
37週を過ぎたらいつ出産しても良いと言われていたので、早く出産したくて1日合計2時間歩く様にしているのですが、赤ちゃんが少し大きいそうです。
果物を食べ過ぎている事も大きくなる原因と言われました。
もうすぐ39週に入るので、赤ちゃんの推定体重も大きくなっている事もあり、沢山動いて早く出産しましょう。と言われたので、歩く様にしているのですが、ちゃんと40週までに産まれるのか不安です。

今の状態で少し大きめな赤ちゃんを、どうしたらスムーズな良いお産ができるのでしょうか。
アドバイスを頂けると助かります。

投稿: ひろこ | 2012年4月21日 (土) 22時06分

 ひろこさん、妊娠38週だろうと、妊娠39週だろうと、地球一周だろうと、赤ちゃんはちゃんと生まれきます!

 まず赤ちゃんを早く生もうなどという、そのアドバイスを聞き入れないように。
 出産はお腹の中の赤ちゃんが決めることなんです。
 胎児は外に出たくなると、必ず子宮口に移動し始めます。
 多分、「ボコン!」という音がすると思うんです。
 それかお腹の赤ちゃんがいつも違う所にいるってのが、手で触ってみると解るようになります。
 その後、「おしるし」が出て、それで陣痛、そして出産です。

 確実に安産に持ち込みたいのなら、「散歩」プラス「スクワット」ですよ。
 それに糠漬けや納豆を食べることですな。

投稿: タマティー | 2012年4月22日 (日) 06時36分

タマティーさま

はじめまして。
昨年12月に出産し、血の道症になってしまい、調べていたらこちらのサイトにたどり着きました。
今置かれている状況にとてもタイムリーな話題で、引き続き読ませていただいています。

今日は体質改善についてお伺いしたく書き込みさせていただきました。

出産そのものは、妊娠h後期から若干高血圧(上が130くらい)で降圧の点滴を打ちながらだったことと、出血が多かったくらいで、そのほかは安産でした。

そして産後、月1~2回くらい、自家中毒を起こすようになってしまいました。
症状は頭痛、吐き気(実際にはくことも)、下痢、体のだるさ、手足先の冷えです。
そもそも自家中毒は、2~10歳の子どもに起こることのようなので、
大人には当てはまらないのかもしれませんが・・・
最初は自家中毒とはわからず、排卵や生理の関係や、
ホルモンのバランスで
そうなっているのかな、と原因がよくわかりませんでしたが、
症状で考えてみると、自家中毒がぴったりです。
しかも今月は主人も同じような症状になってしまいました。

復帰前は一日寝ていれば楽になったのですが、
今月から仕事復帰した(事務のパートで、一日6時間です)ので、
そういうわけにもいかなくなってきました。
また、前兆がなく突然やってくるので、その辺も困ってしまいます。
病院で点滴を打てば良くなるとは思うのですが、
授乳中のため、あまり下手なことはせず、自分で治したいという気持ちでいます。

普段の食生活は、胚芽米・菜食中心で、肉・魚少し、という感じです。自覚はないのですが、数値では貧血気味なので、
切干大根や小松菜を取っていますが、効果がでているのかは
なぞです。
夫は、肉魚がメインのおかずです。

夫婦としての過ごし方、食生活等で改善できることがあれば、
おしえていただけないでしょうか?

よろしくお願いいたします。

投稿: レゴマン | 2012年4月22日 (日) 20時22分

 レゴマンさん、こういう入院するほどの病気ではないものは、逆に余計に厄介ですな。

 まず考えられるのは、何か足りないのではなく、食べ過ぎていることですよ。
 胚芽米の場合、エネルギーが白米よりも高いので、1日2食で充分なんですよ。
 因みに胚芽米は玄米よりもエネルギーが高いです。
 このため1日3食も食べていたら、出血するわ、自家中毒になったりします。
 1日2食にして、朝食はリンゴ人参ジュースにしたらどうですか?

 それと料理の際の注意点を述べておきます。
 胚芽米は脱穀直後なら弱アルカリ性になりますが、時間の経過と共に段々と酸化していきます。
 肉や魚はそのまま食べても既に酸化しています。
 このため体を弱アルカリ性に戻す料理が必要になってくるんです。
 「酢の物」「糠漬け」「納豆」「梅干」などです。
 こういう料理がないと、体が酸化してしまい、自家中毒を起こしてしまいます。

 地道に料理を見直して、なんか変化があったら、またコメントして下さい。 

投稿: タマティー | 2012年4月23日 (月) 06時50分

タマティー様アドバイスをくださりありがとうございます。
スクワットも毎日取り入れていこうと思います。
いつも、心細い時に頂ける回答は心強くて感謝しています。

投稿: ひろこ | 2012年4月24日 (火) 20時03分

タマティーさま

お礼が遅くなりすみません。
改善方法、
教えていただき、ありがとうございます。

「食べすぎ」・・・本当におっしゃるとおりで確かに胃が食べ物を受け付けなくなりましたが、しばらくすると逆に楽になりました。

胚芽米は良い、という自分の思い込みも分かり(ときにはお茶碗2杯食べてたときもあり・・・)、
麺類も好きなので、できれば1日1食取り入れていくことにしました。
母が元気でないと、子どもも不安になりますね。
具合が悪いと4ヶ月といえど、なんとなく察するようで、じっと見てくるときがあります。

またデータを取って、変化があったらお伝えできたらと思います。

投稿: レゴマン | 2012年4月28日 (土) 13時55分

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