« こういう恋愛はダメなんだよ | トップページ | 『不思議の国のアリス』と「偏頭痛」 »

今でも名作『はじめてのおつかい』

●絵本とリアリズム

 大方の絵本は絵を抽象的に描きすぎているのだ。読者が乳幼児ということで、絵に対して手抜きをしてしまうのである。しかし読者である子供達の方は堪ったものではなく、大きくなれば絵本に見向きもしなくなってしまうのだ。これは子供の成長の結果で起こったことと考えるのではなく、子供達が捨てたと見るべきなのである。

 絵本に於いてもリアリズムは必要である。リアルな絵だからこそ説得力を持つのである。しかもリアルな絵があるからこそ、空想が可能になってくるのだ。空想だけでは空想が成立しないのである。空想と言うのは常に現実を前提に成り立っているのだ。

 子供達はスタジオジブリの映画が大好きである。なぜならジブリの映画はこのリアリズムと空想のバランスが巧く取れているからなのである。ジブリの風景描写は非常に精密である。そういう背景があればアニメチックなキャラを出すことができるし、物語自体も空想的な物にすることができるのである。

 リアリズムのない絵本に対してはどうしても許せないことがある。それは絵本に出て来るお母さんが既にお母さん化しているということなのである。

「赤ちゃんのいるお母さんって、もっと若い」

これこそが事実であろう。絵本作家が自分の母親を基準に母親像を描いているために、結構年を食ったお母さんになってしまっているのである。

 それと実際の乳幼児は歩けるようになっても、必ず「こける」のである。人間にとって二足歩行というのは難しいものなのである。だから絵本の中で乳幼児がこけないのなら、その絵本作家は真面目に育児をしたことがないと断定せざるをえないのである。

●原作では怪我をしていない

 今回紹介する絵本は、実を言うと、俺が子供の頃に読んだ絵本なのである。俺が読んだ絵本の中で一番良かったと思った絵本である。大人になってからこの絵本を読んでみると、この絵本は本当に名作だなと思えるほど素晴らしいのだ。

     

筒井頼子原作 林明子作画 『はじめてのおつかい』(福音館書店)

 物語は主人公の「みいちゃん」が初めてのお使いに行くというお話である。絵本なので物語は単純そのものである。しかも短い。絵本作家としてはその単純で短い物語の中に、どれだけ巧く物語を展開させていくから腕の見せ所なのだ。

 大人になってからこの絵本を読んでみると、原作ではみいちゃんは怪我をしていないということに気付く。絵の方だけで怪我をしているのだ。これは作画を担当した林明子の思いつきなのであって、多くの読者たちは原作でも怪我をした文章があるのではないかと思い込んでいるのだ。

 絵本の場合、如何に文章を読んでいないかの証左であろう。

 作画の林明子が主人公に対して勝手に怪我をさせてしまったので、裏表紙では母親から治療を受けた姿を書いており、これで辻褄を合わしているのだ。これは見事というしかない。なぜならみいちゃんが怪我をしたことで読者たちは感情移入することができたし、怪我の治療を見せることで母親の母性愛までをも見せることができたからなのである。

 筒井頼子の原作の方も素晴らしい。無駄のない言葉できちんと物語を展開させているからだ。しかしそれに作画の林明子が何かを加算したからこそ、この絵本の出来が物凄く良くなったのである。絵本の場合、「原作半分、作画半分」なのである。一方の意見だけが通っては面白くならないのだ。

●遊び心の大切さ

 この絵本には子供の頃に読んだ時には気づかなかった箇所が多々ある。

 例えば「筒井商店」というのは、原作の筒井頼子の苗字を取ったものだし、掲示板には絵の教室「林明子先生」と書かれているのだ。こういう遊び心は非常に面白い。原作者や作画担当が絵本の中に出て来るからこそ、その面白さがグンと高まるのだ。

 しかも掲示板には「迷い猫」も出て来るのだが、この猫、絵本を良く見てみると違う頁に出ているのだ。確かに迷い猫の掲示は良くあることなので、こうやってその掲示を書き込み、しかも探している猫がきちんと出てくれば、それだけで笑ってしまうのだ。

 ラストでは赤ちゃんが手を振るのもなんとも面白い。この絵本の物語では赤ちゃんは脇役でしかない。しかし主人公の「みいちゃん」は赤ちゃんのために牛乳を買いに行くのだから、ラストでは赤ちゃんに何かをして貰わねばならないのだ。原作では抜け落ちている所を、作画の林明子はきちんと補ったのである。

 多少ケチをつけさせて貰うと、この母親は赤ちゃんに牛乳を飲ましたってことなのか? この赤ちゃんが小児癌や小児性白血病に罹らないことを祈る。この絵本が出版された当時では、赤ちゃんに牛乳を与えることの危険性がまだまだ解っていなかったのであろう。

 それとこの赤ちゃんデカくないか? ハイハイしているシーンは出てこず、寝たきり状態ということは、生後6ヶ月以下ということであろう。そうなると結構デカいように見えるんだけど。まあ、赤ちゃんを小さく書いてしまうと、それはそれで面倒なので、これは仕方ないか・・・・・・。

●しっかりとしたプロットがあればこそ

 絵本も本であることには変わらないから、必ずプロットを必要とする。プロットは必ず「起承転結」でなければならず、これを満たさなければ本として成立しないのだ。絵本の中にはこの最低条件を満たしていない絵本が結構あるのだ。

 しかも読者が乳幼児であるために、普通の起承転結であってはならない。「起承」を早めに済ませ、「転」の部分を長くし、そして一気に「結」へと持ち込まないとならないbのだ。この絵本の場合、みいちゃんがこけてから「転」が始まるので、起承の部分が短く、みいちゃんがお店のオバサンからお釣を貰うことで「転」が終るので、転の部分が長くなっているのだ。

 この絵本はプロットがしっかりしているからこそ、作画の林明子は思う存分力量を発揮できたし、遊ぶこともできたのである。絵本で絵が抽象的になっている物は、その絵自体がダメだけでなく、その絵本の物語自体がダメになっている場合が多いのだ。

 ところがこれほどまでに素晴らしい林明子が自分で原作を作った絵本を読むと、そんなに面白くないのだ。作画担当が自分も原作を作り、全てを自分のオリジナルで行きたいという気持も解らなくないが、やはり絵本の原作を作るというのは、余程優れた文才がないと出来ないものなのである。

 因みにこの林明子は『魔女の宅急便』の第一巻で作画を担当しているのだ。俺としては林明子が描いたキキの絵が一番好きである。林明子が作画を担当しなければ、この『魔女の宅急便』ですらその原作の良さを巧く活かせなかった筈だ。だから作画担当の責任というのは結構重いものなのである。

Portrait.Of.Pirates ワンピース STRONG EDITION トニートニー・チョッパーVer.2 Toy Portrait.Of.Pirates ワンピース STRONG EDITION トニートニー・チョッパーVer.2

販売元:メガハウス
発売日:2010/08/25

Amazon.co.jpで詳細を確認する

|

« こういう恋愛はダメなんだよ | トップページ | 『不思議の国のアリス』と「偏頭痛」 »

おすすめサイト」カテゴリの記事

学問・資格」カテゴリの記事

心と体」カテゴリの記事

恋愛」カテゴリの記事

文化・芸術」カテゴリの記事

書籍・雑誌」カテゴリの記事

育児」カテゴリの記事

趣味」カテゴリの記事

子育て」カテゴリの記事

教育」カテゴリの記事

結婚」カテゴリの記事

家計」カテゴリの記事

妊娠 妊婦 子育て 育児」カテゴリの記事

コメント


やはり変わるんですか
大きさというよりも、
基本的に女性の気持ちの
問題のような気もします

私は、気持ちが受け入れ体制
じゃないとダメですね。
好きな人じゃないと無理です(>_<)

腹筋が締まりと関係あるのですね!
私も子供1人産んでいますし、
鍛えてみようと思います

話は変わりますが、
彼氏が3日前くらいから
お尻の穴が痛いと言っていて、
もしかして痔かもしれないんです
痛くなる心当たりはなく、
力を入れたり、せき込むと
痛いらしいです
外側ではなく、内側みたいです。

以前タマティーさんが痔になり、
『謎の中国薬』によって完治する
お話がありましたが、『謎の中国薬』の
名前が分からないとの事ですし、
対処法はないのかなあと思いましたが
ダメもとで相談させて頂きました

やはり病院に行くしか
ないのでしょうか?

投稿: りあ | 2012年5月17日 (木) 23時25分

 りあさん、病院に連れて行った方がいいです。

 内側でしょ。
 それは危険だって!
 場所が場所ゆえに、「痔」かもしれないけど、「大腸癌」ってこともありますからね。

 飲酒するし、外食が多いし、性格的に多少問題がある以上、体のどこかで病気が出て来るもんだって。

 それと最近、気候が変動していて、夏のように暑くなったと思ったら、急に寒くなったりするので、それで体を冷やしてしまったんじゃないかな?

 二人で病院に行くのも結構楽しいですよ。
 りあさんにとっては他人事なので、充分に楽しみましょう。

投稿: タマティー | 2012年5月18日 (金) 06時58分


ですよね〜(>_<)
母親にチラッとその話をしたら
イボ痔は病院に行かないと
治らないって言ってましたし

心当たりないのに痛くなったので、
多分イボ痔だろうと勝手に
予想しています。

最近、確かに気温の変動が
激しかったですよね
それで冷えたからか、珍しく私も
風邪を引いてしまいました
私は風邪で彼氏は痔かあ…
普段の生活が祟ったのですね

何故か、今保険証がないらしいので
作らせて病院に連れて行きます。

私の風邪の病院に付き添って
もらったので、今度は私が
付き添ってあげたいと思います(笑)

彼氏を心配に思う気持ちもありますが、
病院デート楽しんで来ます

投稿: りあ | 2012年5月18日 (金) 09時36分

タマティー様いつも有難うございます

昨日、本屋さんで『はじめてのおつかい』ゲットしました!おっしゃる通りとても良い絵本でした
なんといっても絵が生き生きして良い!です。
次女も喜んで三女に読んであげていました。
良い本をご紹介くださり有難うございました

ところで、今朝の金環日食ですが…
うちの近所のご家族達も屋上やベランダに出て大騒ぎ。学校も登校時刻をずらしたり(うちは通常通り行きましたが)。マスコミもスゴかったですね
ただ、前に聞いた話で、日食は昔から不吉なものとしてとらえられてきたし、かつて天皇家の建物も全部布で覆い日食の日が当たらないようにしたという…
私達現代人もなるべく見ない方が良いし、見ると良くない事が起きるという…本当でしょうか?
タマティー様はどう思われますでしょうか?

投稿: ひげ夫 | 2012年5月22日 (火) 00時09分

 ひげ夫さん、うちの所も大騒ぎでした。
 それなのに雲ばっかで。

 そのことを理解するためには「陰陽道」を知らないとね。
 日蝕を危険な物と看做したのは「陰陽道」の人々なんです。
 それに神道の穢れの思想と結びつくと、そういうことをやってしまうわけです。

 考えてみれば、天皇陛下はイギリスに訪問中ですな。
 これって、わざとだったりして。

 日蝕を見ようが見まいがどうにもならんて。
 それよりも日蝕は十数年とか何百年周期で起こるから、そういう時に政治がダメだと、「日蝕は不吉である」ということを利用して、政権の転覆を図るんじゃないかな?

 昔の天皇たちが現在から異常とも思える行動を取ったのは、異常な行動を取ることで、日蝕を理由にした政治変動を起こさせないようにしたんだろうと思います。
 そういう用心深さが政治家には必要なんですよ。

投稿: タマティー | 2012年5月22日 (火) 07時14分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 今でも名作『はじめてのおつかい』:

« こういう恋愛はダメなんだよ | トップページ | 『不思議の国のアリス』と「偏頭痛」 »