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小説家殺しの作家

●「読者の読書」と「作家の読書」

 大きな図書館に行った時、「わぁ、本がこんなに沢山あるんだ!」と驚いてしまったことはないだろうか? 自宅に書庫がある家に生まれない限り、本が大量にある姿を見ることは驚きなのだ。そういう驚きは非常に大切なのであって、そういう驚きがあればこそ、謙虚になって1冊1冊本を読んでいくことができるのである。 

 普通の読者たちが幸せなのは、自分が読める本が大量にあるということなのである。なんせ本は無数といっていいくらいにあるので、その中から自分が好きな本を選び読んでいけばいいのだ。「最近、面白い本がなくてぇ~」という人はただ単に読書をする習慣がないだけのことであって、読書をし続けていけば、必ず面白い本が見つかるものなのである。

 ところが作家になれば違うことになる。職業柄、本を大量に読まざる得ない仕事なのであって、そうやって本を大量に読んでいけば、いずれ作家自身が面白いと思える本がなくなってしまうのである。既存の書籍で面白い本がないからこそ、自分が作家として新たな本を執筆し続けていかなければならないのである。

 作家が「最近、面白い本がなくてぇ~」というのは、許されざる発言なのである。「面白い本がないなら、お前が書け1」ということなのである。面白い本を書かないことは職務怠慢であり、もしも世の中に面白い本があるなら、それは自分が新手の作家に出し抜かれ、作家生命の危機にあるということなのである。

 出版社の社員たちの最大の喜びというものは、「この世にまだ出ていない本を読める」ということにあるのだ。出版社の社員たちは作家から原稿を貰い、仕事と称して未出現の本を読めるのである。それはお金を支払って行うのではなく、給料を貰いながらするのである。だからこそ、面白くて、この仕事を辞めることができないのである。それほど楽しいのだ。

●三島由紀夫と司馬遼太郎を殺した作家

 二流三流の作家が「最近、面白い本がない」と言えば、第三者から見れば職務怠慢ということが解る。しかし一流の作家が「最近、面白い本がない」というのは、それは本当のことなのだ。だから自分が面白い本を書いているのである。

 一流の作家が時代を引っ張っていくという責務は想像以上のストレスを発生させているのである。

 嘗て三島由紀夫が日本を代表する作家としてノーベル文学賞候補にノミネートされていた時、「もしも僕がノーベル文学賞を取らないのなら、日本人でノーベル文学賞を取るのは大江健三郎であろう。」と奇妙な発言をしていたのだ。ということは、三島由紀夫は私生活で大江健三郎の小説を読んでいたということになる。

 事実、三島由紀夫の予言の通りに、三島由紀夫は割腹自殺をしたためにノーベル文学賞を取ることができず、その後、大江健三郎はノーベル文学賞を受賞することになる。三島由紀夫は日本の作家たちのトップを走っていたからこそ、ノーベル文学賞を取れるのは誰かを確実に予想できたのである。

 司馬遼太郎は『韃靼疾風録』を最後に小説が書けなくなり、随筆家へと転職していくのであるが、その時期には私生活で大江健三郎の小説を読んでいたといわれる。そして司馬遼太郎は静脈瘤破裂のために早くに死亡してしまったのである。

 大江健三郎は三島由紀夫と司馬遼太郎の2人の偉大な作家を殺したといっていいのだ。まさに「小説家殺しの作家」である。

 普通の読者たちなら、大江健三郎の小説は読まないものだ。理由は簡単で「面白くないから」なのである。ところがプロの作家になれば違う。プロの作家たちの中でもトップに立つ者は更に違う。プロの作家だからこそ、一般の読者たちから受けていなくても、玄人受けする小説を敢えて好んでしまうのである。

 大江健三郎は普通の作家たちとは明らかに違うのである。日本で社会主義革命を引き起こすことを目指した小説家なのである。その小説は「巧妙ではなく狡知」であり、読者たちを騙すように書いているのである。そのくせ本人には幼稚性があり、未だに大の大人として自立していないのだ。こういう人物が書く小説は異常を極めるのが当然であり、だからこそ安易に読んでしまえば、この猛毒のために殺されることになるのだ。

●小説家がトップに立った時、読む本がなくなる

 日本の文学史を調べてみると、トップに立った作家ほど、おかしな発言をしていることに気づく。例えば夏目漱石は島崎藤村が『破戒』を発表した時、「これは傑作である!」と絶賛している。どう考えても『破戒』は傑作だとは思えないのだが、問題は『破戒』がどうのこうのよりも、文豪の夏目漱石の発言の方なのである。

 因みに国木田独歩が島崎藤村の小説に対して、「俺なら3分の1の量で書いてみせる!」と言ったことがある。こちらの方が正しい発言なのであって、島崎藤村の小説は間延びしており、まともな作家が書けば3分の1で済む程度の作品でしかないのだ。

 この一件は、実は大事なことを教えてくれる。あの夏目漱石でも自分が日本の文壇のトップに立った時、「自分が面白いと思える本がなくなっていた」とうことなのである。面白い本がないからこそ、どうでもいいような本を絶賛してしまったのである。

 現在、日本の文壇のトップを走るのは、「村上春樹」と「東野圭吾」であろう。彼らは私生活で一体なんの小説を読んでいるのだろう? 遅かれ早かれ、自分が面白いと思える本がなくなる筈だ。問題はその時に一体どうするかなのである。

 日本の文壇のトップを走っているとはいえないが、若者たちに人気の石田衣良ですらも、もう自分が読める本がなくなりつつあるのだ。だから彼は普段、「漫画」や「ライトノベル」を読んでいるというのだ。石田衣良のレベルですらこうなのだから、「村上春樹」と「東野圭吾」のレベルになったら、面白い本が皆無になるのは当然のことなのである。

●文壇に競争があるからこそ、面白い本が生まれる

 作家も有名になってしまえば、新人賞の選考委員になったりしてしまう。そこに応募してくる小説の大半は詰まらない物なのである。当たり前のことだが素人が書いてくる小説というのは高が知れているのだ。それを闇雲に酷評してはならないのだ。嘗ては選考委員たちだって、その程度の小説しか書けなかった筈なのである。

 もしも新人賞に応募してくる作品の中で面白い物があれば、必ずそれを書いた人物は自分のライバルとして登場してくることになるのだ。プロの作家たちを驚倒させる人物は、その後、続々と名作を書きまくってくるものなのである。まぁ、選考委員というのは、そういう作家誕生の瞬間を見ることができるという喜びがある仕事なのである。こういう仕事は滅多にない貴重な仕事なのである。

 文壇は新陳代謝を繰り返すからこそ発展していけるのである。文壇のトップを走る作家たちに異常な言動が見られるなら、その作家に対して下克上を働くべきなのである。そうやってトップが交代してくれれば、下の者たちが順々に繰り上がって行き、そうなれば新人の作家たちが幾らでも入っていけることができるようになるのである。

 作家としてあくどい生き方をしょうとするなら、文壇の大御所に擦り寄ってオベッカを使い、新人の作家たちを潰して、文壇の新陳代謝を止めてしまえばいい。こういうことをすれば、その作家は生き延びることができるが、そのために面白い小説がなくなり、出版不況が日本全国を覆うことになるのだ。

 読者たちしてみれば、文壇が安定化してしまうのは、非常に迷惑なことなのである。文壇の秩序が崩れ、作家同士で競争しまくってくれた方が良いのである。そうやって競争が激しいのなら、古臭い作家たちは死んでいき、新しい作家たちが活躍しまくることになるのだ。そうなれば面白い本が続々と誕生してくるものなのである。

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コメント

タマティ様

おはようございます。
産後一年たち落ち着いてきたので、2人目に向けて頑張ろうと思っていたのですが、不正出血とガン検診のため産婦人科に行くと、無排卵じゃないかと言われました

授乳をやめて、ピルを飲んで排卵をおこすと言われたのですが、ピルを飲むのをためらっています。

ピルを飲まずに、何か自分の力でできることがあれば教えていただきたいです。
よろしくお願いします。

ぴいこ

投稿: ぴいこ | 2012年5月10日 (木) 09時20分

 ぴいこさん、授乳中は基本的に無排卵ですよ。
 授乳は乳房だけが働いているのではなく、子宮も働いているんです。
 だから授乳をやめれば自然と排卵するようになります。

 理想は生後2歳まで授乳で行くべきなんですけど、子供がもっと欲しいのなら、離乳食を食べさせて、自然と卒乳するようにすればいいんです。
 無理矢理に断乳すると乳管が詰まってしまい、それで乳癌を発症してしまうので、断乳はしないように。

 それと育児をしていれば、癌には罹らないので、ガン検診に行くのはやめた方がいいですよ。
 ガン検診で「検査被曝」するからこそ、女性の癌の発症率が高くなってしまうんです。

投稿: タマティー | 2012年5月10日 (木) 17時40分

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