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涙ボロボロの『陽だまりの彼女』

●恋愛小説の落とし穴

 恋愛小説には小説の中でベストセラーになり易いジャンルである。作家が恋愛小説を書けば当って当然なのである。しかし恋愛小説には恋愛小説特有の落とし穴が存在する。それは恋愛小説の中で書かれている恋愛が恋愛ではなくセックスになってしまうことがあるということなのである。

 恋愛だけは経験した者でなければ解らない。誰かを好きになるということと、或る日突然に「恋の魂」がズドンッと宿ってきて、たった1人の異性と恋愛するのは、全くの別物だからだ。恋愛ではセックスを伴うが、それがメインではない。メインとなっているものは「恋の魂」なのである。

 恋愛小説と銘打ちながらポルノ小説になってしまうということをやるのは女性作家たちに非常に多い。本人がきちんとした恋愛をせず、自分の欲求不満を小説にぶつけているだけなので、恋愛ではなくセックスが中心になってしまうのである。

 日本の文学史を見てみると、女性作家たちが大量の恋愛小説を書いているにも拘わらず、恋愛小説に関しては男性作家が書くとベストセラーになっているという驚愕の事実が浮かび上がってくるのだ。村上春樹の『ノルウェイの森』や片山恭一の『世界の中心で、愛を叫ぶ』などである。恋愛小説というのは恋愛だけがメインテーマになるのではなく、実は「愛と死」こそがメインテーマになるのである。

 なんで男女間でこんな性差が生じてしまうのかといえば、「恋愛は量よりも質」なのであって、それを経験できたか否かで全てが決まってしまうのである。

 女性たちの中で本物の恋愛をした人は結婚して家族を築くことに全力を注ぐものだ。ところがまともな恋愛ができなかった女性ほど、恋多き女として生きてしまうものだ。恋愛の質を高める努力をするのではなく、セックスの数をこなすという方向に走ってしまうのである。

 この点、男性なら若い時に本物の恋愛をすれば結婚することになるが、男性は女性のように家庭を築くことに全力を注いだりしないので、結婚後に自分の過去の恋愛を元に恋愛小説を書き上げてしまい、それをヒットさせていくことが可能に成るのだ。

●ベタな恋愛小説にして奇想天外の恋愛

 俺が東日本大震災で被災した時、復旧復興作業のために6ヶ月間も休むことなく働いたのだが、その間、日中は仕事をしていても、夜間は読書をしまくるようになってしまった。大震災で被災したからこそ文学が欲しくなったのである。

 俺と同じようなことをやっていた人たちは被災者たちの中には結構いて、被災者たちの間でブームになったのが、越谷オサムの『陽だまりの彼女』(新潮社)なのである。この恋愛小説はベタな恋愛小説にして奇想天外の恋愛なので、被災者たちを大いに満足させてくれたのである。

  陽だまりの彼女

 主人公の「浩介」は社会人になってから或る時、中学校の同級生の女の子と再会する。その女の子は「真緒」というのだが、中学生の時は学校有数のバカで、漢字を碌に書けないほどのバカだったのであり、しかもイジメられっ子だったのだが、十年ぶりに再会してみると、物の見事な美女に変身していたのである。

 浩介は仕事を通じて再開した真緒とその内に交際をし始め、そして結婚することになる。ところが結婚後、真緒の秘密がどんどん明らかになっていき、しかも真緒の体がどんどん弱っていく。そして真緒は自分が死ぬ前に或る日に浩介の前から姿を消してしまうのである。

 浩介にとってみれば妻が失踪したことになるのだが、恐ろしいのは真緒が失踪すると真緒がこの世に存在していた事実までが消え去ってしまったのである。そこで浩介が調べてみると、真緒は自分が中学生の時に拾った捨て猫の「ロシアン」だったということに気付くのである。

●「謎解き」と「幻想」

 この恋愛小説の何が凄いのかというと、奇想天外の恋愛でありながら、ちゃんと「純愛」が貫かれているということなのである。それをバックアップするのが真緒の養父母たちへの真緒への愛情なのである。浩介と真緒の恋愛と、真緒と養父母の親子の愛情がクロスすることによって、単なる恋愛小説ではない感動を発生させるのである。

 この小説を読んで涙がボロボロと出たという火とは多いのではないだろうか?

 普通の恋愛小説なら恋愛が突き進んで行ってしまうものだ。それなのにこの小説には「謎解き」の要素が加わってくるのである。当たり前のことだが、恋愛をすれば相手の秘密を少しずつ知っていくことになるのだが、このリアリズムがきちんと装備されているのである。

 それと同時に「幻想」も織り込まれているのである。真緒を生身の女としてしまった場合、この小説に巧くトリップできなくなってしまう。トリップできなかった人は「妻がいなくなってしまった浩介は可哀想!」と言い出すだろうが、真緒は所詮「猫」なのであり、しかも真緒がこの世に存在した事実も消えてしまっているのである。

 俺はこの越谷オサムが大好きでイチオシの作家である。しかし問題点も少しあって、彼の書く小説では「文章が重い」のである。重い文章のためにスラスラと読んでいくことができないのだ。それと「章分けの稚拙さ」である。1つの章が長いし、せめて章に名前をつけて欲しいよ。

 越谷オサムの小説には問題点もあるのだが、それでも今回の小説は「純愛」といい。「親子の愛情」といい、「謎解き」といい、「幻想」といい、普通の恋愛小説では絶対に味わえない感動を齎してくれるのである。或る意味、「お見事!」と評価するしかないのだ。

●スタジオジブリによる映画化を望む

 俺がこの小説を読み終って思ったのは、「映画化して欲しい!」ってことなのである。インターネットで調べてみると、この小説を映画化して欲しいという声は非常に多かった。それもそうだろうと思う。映画にしたらより面白くなるからだ。

 しかし実写版の映画ではこの小説の面白さを表現するのは無理であろう。日本の映画業界は国際的にレベルが低いので、真面目に作ってもチープな映画になってしまう可能性がある。大体、真緒の役をきちんとこなせる女優はいないのである。

 俺だったらこの小説はスタジオジブリに持っていくね。スタジオジブリには猫好きのスタッフが多いので、猫の魅力が前面に出て来る小説なら巧くアニメ化できるだろうと思う。映画化の際には原作を多少変えてもいいような気がする。その方が映画は面白くなることだろう。

 この世の中には猫が好きな人たちが結構いるので、映画に猫を出すと売れる可能性があるのである。ただ実写版では難しいのだ。猫の気紛れさを巧く映像に収めることができないものなのである。だからアニメなのである。アニメならそれができるのである。

 スタジオジブリも宮崎駿監督がもう老齢のためにヒット作を作れないという現実を直視して欲しいものだ。新手の監督が出て来て、質の高い作品をヒットさせないと、幾らスタジオジブリとはいえ潰れてしまうものなのである。宮崎駿監督のように原作まで作ってしまう手法はもうやめた方がいいのだ。それよりも出来のいい原作を頂戴して、それを映画化すればいいのである。そうすればヒット作が出て来るものなのである。

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コメント

タマティーさま
お久しぶりです。以前コメントした者です。
猫好きなのでタマティーさまの書評を読み、ひかれて、今日本屋で文庫本を買いました!
そして、一気に読んで涙ポロポロですー。
タマティーさまの書評でほぼ結末も分かってしまうものの、やっぱり泣いてしまいました。
ビーチボーイズの素敵じゃないかの和訳でも泣けました。今、思い出して涙目ですよー
去年文庫で出版になり、1年も経たないうちに17刷も増刷されているとは!
ジブリの「猫の恩返し」のような映画になったらいいなぁ
変なアイドルでテレビドラマ化だけは、やめてほしいです!

男性作家の恋愛小説は、辻仁成の「冷静と情熱のあいだ」しか読んだことがなく、何だか官能小説みたいであまり好きになれませんでした。
江國香織さんのバージョンは独特の言い回しで好きでした。
20代の頃は、恋愛マニュアルやら女性作家の恋愛小説ばかり読んでました。
やっぱり本は、他者の意見を聞いて、まんべんなく読まないと、人生に影響しますね。

投稿: 明子 | 2012年6月13日 (水) 18時13分

 明子さん、読んでくださって有難うございます!

 結末を知った上で読んでも感動できるでしょ?
 ベタな恋愛で、非現実的な恋愛だけど、ちゃんと物語構成はしっかりとできているので、何度でも読めますよ。

 恋愛だけは量ではなく質なのであって、作家本人がちゃんとした恋愛をしていないと、巧い恋愛小説なんて書けないですよ。
 自分がちゃんとした恋愛をしていないのに、自分の妄想を恋愛小説として書くのだけはやめてほしいですよ。

 因みに「明子ネタ」が『実力ある処女作「たいふうがくる」』の記事で出ていますので、是非とも読んでくださいね。

投稿: タマティー | 2012年6月13日 (水) 18時38分

タマティーさま
お返事ありがとうございました!
あの灰色の子猫が、ラストにでてきたところでも泣きました(笑)
『白い犬とワルッを』も設定がこの小説に近いので泣けました。
映画では、仲代さんが主演で良い出来でした。


あきこネタはもちろん拝読しましたよ!
そちらにコメントしますね。
あと徒然草にもコメントします。

投稿: 明子 | 2012年6月13日 (水) 19時09分

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