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奇想天外の『ピアノはっぴょうかい』

●女の子だからこそ絵になる

 育児をしてみれば解ることだが、男女は平等に成長してこない。男女の性差を徹底的に見せ付けられることになる。学校では延々と男女平等を教えれてきたが、育児をしてしまえばそれは「完全なる嘘」だというのが解ってしまうのである。

 男の子は成長が遅いし、そのくせすぐに病気に罹る。男の子はまさに「怪獣」で滅茶苦茶なことを平気で仕出かしてくる。だから母親はこういう手のかかる子供にはメロメロになってしまい、育児の楽しさを思う存分味わえることになる。

 一方、女の子は成長が早く、乳児の段階でもう言葉を喋ろうとしているのだ。女の子は外見こそ可愛らしいものだが、女の子はもう大人の考えを持ち始めているのだ。父親はいつも自宅にはいるわけではないので、こういう女の子に接してしまうとバカ親丸出しになってしまうのである。

 絵本の主人公を女の子にした方が断然に絵になる。男の子は怪獣同然だから、この時期特有の凶暴さをきちんと描かないと、説得力を持ちえないのだ。ところが通常、絵本作家たちはそんなことを描かず、理想的な男の子を描いてしまう。だから説得力を持たないのである。

 女の子を主人公にしたのなら、女の子特有の可愛らしさがあるし、その反面、大人なびた所もあるので、絵本作家が大人の視点から見てもきちんと描くことができるのである。まあ、書き易いといえば、書き易いのだ。

●起承転結の巧さ

 今回紹介するのは、

 みやこしあきこ著『ピアノはっぴょうかい』(ブロンズ新社)

  ピアノはっぴょうかい

 主人公の「ももちゃん」が初めてのピアノ発表会に行くというお話である。身長の高さからみると小学校低学年であろうと推定され、幼さはまだまだ残しているのである。その「ももちゃん」が初めてのピアノ発表会ということで緊張しまくっているのである。

 そこに1匹の子ネズミが現れ、「私たちも発表会をしているの」ということで、子ネズミに連れられてネズミたちの発表会を見に行ってしまうのである。その発表会を見ることに夢中になってしまった「ももちゃん」は自分がこれからピアノを演奏しなければならないことなどすっかり忘れて見入ってしまう。

 そしてこれから子ネズミが歌を歌うことになるのだけれども、子ネズミは緊張しまくってしまい、「巧く歌えなかったら、どうしよう」と悩むので、そこで「ももちゃん」が「私が一緒に出てあげるから大丈夫」と励ます。

 その後、「ももちゃん」は舞台に上がってピアノを弾き、子ネズミは歌を歌い始める。すると場面が転換してしまい、「ももちゃん」のピアノ発表会のホールになってしまい、自分の緊張感は消えていたのである。そうやって「ももちゃん」は≪楽しい気持ち≫のままでピアノを演奏し、会場は大きな拍手でいっぱいになったのである。

 この絵本は起承転結がしっかりしているので非常に理解し易い。起承を早めに済ませ、子ネズミが出てくる所から「転」が始まる。「転」の部分が異様に長く、ピアノ発表会のホールに戻るシーンで「結」になる。起承転結の内、「転」lこそがメインになるという文芸理論を忠実に実行しているのだ。

●空想は説得力を生む

 題名が『ピアノはっぴょうかい』と銘打っている以上、本当にピアノ発表会で起こった出来事を記述するのも遣り方の1つだ。しかしこの絵本のように作者の空想を載せるというのも1つの遣り方なのだ。「現実か、空想か?」という選択はその絵本の命運を完全に分けてしまうものなのである。

 ネズミたちが出てくる話が本当に空想話なら、この絵本は駄作だということになる。しかしネズミたちが出てくる話は、実は「ももちゃん」の緊張を解きほぐすためのものなのである。ネズミたちによって緊張することがなくなったからこそ、「ももちゃん」は楽しくピアノを演奏することができたのである。

 空想は説得力を生むのである。逆に言えば説得力ある空想でなければ意味がないのだ。もしもこの空想がなければ、「ももちゃん」は緊張した状態でただピアノを演奏するだけになってしまい、自分が積極的になって楽しく演奏しようとはしなかったのである。

 ピアノの先生が言うように「いつものように弾けばいいからね」というのも1つの言い分ではある。しかしそうやって演奏しても、失敗してしまうものなのである。発表会に出ている生徒たちは緊張しまくっているものなのである。

 大事なことは「楽しい気持ちのまま演奏すること」なのである。そのために空想が必要になってくるのである。空想によって現実を忘れ、本当の自分を取り戻すのである。本当の自分なら楽しくピアノを弾けるのである。

 だからラストで母親が「「ももちゃんの笑顔、凄く良かったな」と言うのは実に重みがある言葉で、母親は「ももちゃん」の演奏を褒めたわけではないのだ。技術的なことを云々言い出すのは、中学生になってからでいいのである。ピアノを楽しい気持ちの状態で弾けることこそ、幼い時には絶対必要なのである。

●絵本作家とピアノ

 この絵本は絵本だからといってバカにしていると、とんでもない目に遭ってしまう。この絵本はピアノに間して大事なことを教えてくれているのだ。より大袈裟に言ってしまえば、「芸術の根幹」を教えてくれているのである。

 「楽しさ」こそ芸術の原動力なのである。

 この大事なことを忘れてしまうと、芸術は悲劇しか引き起こさない。プロのピアニストたちの中には苦しみながら演奏しまくり、その結果、難病奇病に罹る人たちがいるものなのである。学校の音楽の教師だって、「音楽」を「音が苦」に変えてしまい、それで生徒たちに暴力を振るうのである。

 こういうことをやっていては芸術が消滅するのは当たり前のことなのである。

 「みやこしあきこ」は絵本作家なのに芸術に於いて最も大事なことを言えるのは、彼女自身、子供の頃にピアノを習っていたからなのである。子供の頃から絵本作家を目指していなかったために、普通の絵本作家では言えないこともきちんと言えているのである。

 幼い時にピアノを習っていたからこそ、絵本を描いた時に「起承転結」がある絵本を描けるのである。普通の絵本作家たちだと起承転結を無視するということを平気でやってくるのだ。だからこそ絵本として成立していないのである。

 もう1つはピアノをやっていたために、「言葉の巧さ」が素晴らしいのだ。絵本は黙読するのではなく、音読して欲しい。音読してみると、「ももちゃん」の気持ちが伝わってくるし、リズム感の良さに驚いてしまうものだ。

 そして何より作者の「ワクワク感」が伝わってくるのである。自分が楽しいと思うからこそピアノを弾いた人は、大人になって自分が楽しいと思うからこそ絵本を描いてくるのだ。そういう絵本は絶対に楽しい絵本なのである。

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コメント

タマティーさんこんばんは

娘(1歳)が大きくなったらこの本を読ませてみたいと思います♪

質問なのですが、よく寝る前に絵本を読んであげるのが良いと言われていますが、どうなんでしょうか?

子供が会話ができる年齢になったら、「絵本を読んであげるからお布団に入ろう♪」という寝かしつけの誘導には使えるのかもしれないのですが、本を読むということは部屋の電気はつけないといけないし、好きな絵本だったら逆に楽しんじゃって、部屋も明るいし興奮してなかなか寝ないんじゃないか?と思います。

昼間以外に、寝る前も読み聞かせはしてあげた方がいいのでしょうか。

投稿: 美貴 | 2012年7月17日 (火) 00時08分

 それって美貴さんの言うとおりなんだよ!

 まあ、楽しくなるような絵本は日中読めばいいですよ。

 寝る前に絵本を読むというのは、幾つか理由があるからjこそやっているんです。

 まず子供は母親が或る一定のトーンで絵本を読み聞かせると、本当に眠ってしまうんです。
 
 第二に、就寝直前に母親が話を聞かせると、その言葉を記憶し、知能が高くなると同時に、心も穏やかになっていくんです。

 第三に寝る前に絵本を読み聞かせてくれると、夢の中でも悪い夢を見なくなるので、夜中に泣いて起き出すことがなくなるんです。


 夜間に読む絵本は余り子供が食いついてくる物は避けた方がいいですね。
 眠たくなるような絵本を使えばいいんです。

 ちなみに、今回紹介した絵本は昼間向けだと思います。(笑)

投稿: タマティー | 2012年7月17日 (火) 06時44分

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