とっても不思議なお葬式
●お葬式は葬儀屋の良し悪しで決まる
人間は死ねば葬式を挙げなければならない。
葬式こそ遺族たちに課せられた大事な仕事であるのだ。母親は父親が寝たきりになった時点で葬儀屋探しを始めていた。自宅の近くの葬儀屋は値段が高いだけで、内容は全然ダメなので、自宅近辺にはない葬儀屋を探すことにしたのである。
自宅からの交通の便と、葬式の内容、そして料金のことを考えると、「ライフケア」という葬儀屋が最適だと解ってきた。ライフケアは福島県と茨城県と千葉県に展開する葬儀屋で、俺自身、この葬儀屋の名前を知らなかった。
父親が死んだ翌日は友引であったために、父親の葬式は少し送れた。その間、親戚や友人たちに電話をしまくり、父親が死亡したことを知らせた。葬式は会員制ではないので、一体誰が来るのか解らないのだ。
葬儀屋に父親の亡骸を持っていって貰うと、喪服の準備や、葬儀屋に滞在する際の品々を用意した。いざお通夜の当日になって、葬儀屋の最寄の駅に降りてみると、地図を忘れたことが判明した。あれほど入念にやったのに、この有様である。
「ライフケア蘇我会堂」は駅から徒歩で1分という絶好のポジションにある。しかも建物がスマートで清潔である。対応に応じてくれた女性職員たちの言葉遣いや礼儀作法も良い。家族が寝泊りする休憩室に入ってみると、手頃な広さで、大きすぎもせず、小さすぎもしないのである。
ところが、契約の担当者の柄が物凄く悪く、
「ヤクザじゃねぇ~のか?」
と家族全員で陰口を言う始末である。第一印象は物凄く良かったのに、この男性職員のために最悪の印象を持つようになってしまった。葬式のような濃密な時間を過ごす場合、担当者は1人にして欲しい。
●湯灌納棺の儀
お通夜が始まる前に、「湯灌納棺の儀」というものがある。
これは遺族だけの秘密儀式であって、遺族以外の者は参加することはできない。俺は祖父が死んだ時にやった湯灌納棺の儀は全く覚えていないのだ。このためこの儀式は何もかもが新鮮に映ってしまった。
まず父親の遺体が安置されている部屋へと移動した。そこには男性2人、女性1人の納棺師たちがいた。納棺師は仕事柄、男性だけとか女性だけとかでは出来ない。「男性2人と女性1人」の組み合わせが、基本のユニットとなるのだ。これはこの儀式に参加すれば良く解ることになる。
「湯灌納棺の儀」は秘密儀式なので、あれこれと言うことは出来ないが、父親の遺体をタオルで拭き、死に装束をつけさせて、死に化粧を施し、最後には納棺するというものである。全てが感動の作業で、無駄な行為は1つもないのだ。
「湯灌納棺の儀」は料金が高いが、その金額を払うだけの価値は絶対にある。こういう秘密儀式がないと、遺族たちは死者との別れをきっちりと行なうことができないからだ。この儀式は死者のために行なうだけではなく、遺族たちのためにも行なうものなのである。
「湯灌納棺の儀」が終わると、親戚たちがやってきたので、それへの挨拶をしまくることになった。後はもう大忙しなのである。お葬式で遺族たちがゆっくりと過ごせた時間は、「湯灌納棺の儀」だけであったと言っても過言ではないのだ。
●お通夜
会場が広かったために、この会場を参列者で埋めることができるのかと不安がったが、参列者は続々と現れ、どうにかして座席の全てを埋めることができた。というか座席数だけ参列者がやってきたのは不思議という他ない。
これだけ大勢の参列者が集まると、参列者の良し悪しが解ってくる。親戚たちの中には焼香での礼儀作法ができない人物すらいるのだから驚かされる。焼香での礼儀作法がきちんと出来ている人は、普段から親切づきあいを大事にしている人物たちだけなのである。
これが親族以外になるともっとシビアになる。俺が仕事で「この人は本当に仕事ができる!」と思っている人物がいるのだが、この人の礼儀は哀悼の意がしみじみと伝わるような素晴らしいものであった。それに対して親の七光りで億万長者になってしなった人の礼儀は参列者中最も酷いものであった。
不思議な現象はお通夜の後の食事でも続いた。お寿司やテンプラや煮物を用意したのだが、事前にどうもこれでは少ないと判断し、お寿司を3つほど余計に追加注文したのである。するとこ追加注文のお蔭で食事が充分に足りたのである。
お通夜の際には、お酒は少なめにした方がいい。自動車で来ている人は飲酒をしないので、どうしても残ってしまうのである。ジュースは子供がいない限り飲まない。一番売れたのはノンアルコールのビールだったというのは、時代の変化を感じさせる。
●お通夜の残り物で朝食
お通夜の会食では多少残り物が出たのだが、勿体ないということで残り物をお皿に藻って、休憩室へ持ち帰ってしまった。これが翌日の遺族たちの朝食になった。なんとも不思議である。遺族たちが食べるに充分な量だけが残ったのである。
考えてみれば、葬儀屋に朝食を頼む筈であったのだが、父親の死亡以降のドタバタで注文するのを忘れてしまったのである。もしも朝食にありつけなかったら、告別式は結構ハードなものになったと思う。
遺族たちは香典で大金を持つことになるのだが、夜間はこれを休憩室の金庫に仕舞い、朝になったらすぐさま銀行に行って入金するのである。葬式は費用が嵩むものなので、香典を紛失してしまっては大変なことになるのだ。
ライフケア蘇我会堂は近くに銀行が沢山あるので、この点は大助かりだった。葬儀屋だけがあり、銀行が遠いとこれは危険なのである。葬儀屋と銀行はセットで存在してくれないと困るものなのである。出来ることなら、葬儀屋の内部にATMがあって欲しいと思う。
変な話、葬儀屋で最も大事なのは、防犯システムがきちんと整っていることだと思う。もしも香典泥棒にあったら、そのお客は終生に亘ってその葬儀屋で香典泥棒に遭ったことを言い続ける筈だからだ。事実、俺も銀行で香典の入金が完了した時、ホッとひと息をつけたのである。
●告別式
告別式での参列者はお通夜の時よりは少なくなる。基本的に親戚であり、特に親しい友人たちだけである。この方がいいかもしれない。告別式では棺桶に花々を入れる儀式があるので、そんなに親しくない人たちには来て欲しくないのだ。
意外だったのが、育児中の既婚女性たちはお通夜に来ず、告別式の方には来たということである。お通夜のように夜間に長々と家を空けるにはいかないが、告別式のように日中になら長々と家を空けてもいいからだ。
告別式はお通夜ほどには盛り上がらないので、これをどうにか工夫することは必要だと思う。お通夜と同様に読経をしても、「それは前日やったじゃん」ということになってしまうからだ。せめて故人の経歴を述べたり、故人が好きった歌を歌うとかすれば、もっと盛り上がると思う。
告別式が終わると、喪主である母親が位牌を持って霊柩車に乗り込み、それ以外の人々はバスに乗り込む。告別式の参列者たちの大半が帰ってくれたので、どうにかしてバス1台で運べる人数になった。これまた不思議である。
となると告別式だけ出るのは意外と損なのである。葬式では、お通夜のお方に出るべきであって、告別式は親戚とか親しい友人でなければ出る必要性はないのだ。香典は値が張るものなので、せめてお通夜での食事を食べていった方がいいのだ。
●火葬場
千葉市の火葬場は滅茶苦茶お洒落な火葬場である。火葬場が市営であるとは知らなかった。非常に合理的に設計されているので、何事も順調に進んだ。順調に進んでしまったからこそ、棺桶を焼却炉に入れた時は非常に物寂しかった。
遺体が灰になるまでの時間は、火葬場で会食である。ここで参列者全員が個室に行って弁当を食べるのだが、不思議だったのは弁当の数で、丁度1個だけ足りなくなってしまった。そこで追加注文したのだが、姉が体調不良になって飯を食えなくなったので、急遽キャンセルした。
ここの弁当は1個3500円という洒落にならないほどに高い物なのである。そのくせ絶品というほどには美味しくない。通常なら1500円程度のものなのである。2000円分は部屋代の使用料と火葬場の儲けと考えた方が良い。火葬料金自体は安いので、こういうことにならざるを得ないのだ。
お通夜での出来事があったので、火葬場での会食ではビールを減らし、ジュースをなくしたが、それでもビールが余ったのである。火葬場での会食は昼間に行なわれるので、ビールは要らないのだ。これは非常に良い教訓になった。
骨壷に遺灰を入れのだが、骨壷と遺灰を合わせると結構な重さになる。これを持つのは長男である俺なので、一旦持たされると、ずーっと持ちっ放しなのである。物が物ゆえに、他人に渡すわけにもいかないのだ。
●動揺していた帰途
火葬場から帰って来て解散となるのだが、参列者たちが帰ってしまうと、俺は完全に動揺してしまった。父親を亡くしてしまった悲しみが一気に巻き起こってきたのである。しかも骨壷を持っているので、体が適度に疲労してしまったのである。
ライフケア蘇我会堂から自宅までは、ライフケアの社員の方に送って貰ったのだが、この社員は俺が普段使わない道に行ってしまったために、俺自身、更に動揺してしまい、右折禁止の所を「右に曲がれ」と言うし、一方通行で進入禁止の標識が出ているのに、「直進して下さい」と行ってしまったりした。
帰宅して父親の骨壷を仮設の祭壇に置くと、
「本当に父親は死んでしまったんだ!」
という悲しみが襲ってきた。母親は号泣しており、余計にこの悲しみを煽り立てた。葬式が終わったからこそ、やっと遺族たちは悲しむことができたのである。
葬式の際に花輪が沢山出たので、それを自宅に持ち帰った。すると家の中は花の香りでプンプンしてしまい、結構いい気分になれたのである。「遺体と花」はセットになるものだが、花の香りがあればこそ、悲しみが和らぐものなのである。
遺族たちは自宅に帰ってもそれで終わりではなく、香典を銀行に入金したり、買い物をしたり、家の中を片付けたりと、用事は尽きることがないのだ。そうやって用事があってくれた方が気を紛らわすことができるものなのである。
●終わってみれば有難う
父親が死んだ後に、「葬式は大変よ~」と母親の友人に言われたのだが、実際に葬式をやってみると大変ではなく、「有難う」なのである。大変と言えば大変かもしれないが、自分の親の葬式は誰だって最大で2回しかないのだ。その内の1回をやったのだから、感動する方が断然に大きいのだ。
今回の葬式はライフケアでやったのが良かったと思う。それと湯灌納棺の儀の出来が良かったのが、その後の展開をスムーズにさせたと思う。それに親戚たちの助力がったことも大きい。葬式で役に立つのは親戚であって、友人たちではないのだ。
しかし反省点も多々ある。
①休憩室にお茶はあってもお茶請けがない。
遺族たちは悲しみの中にやってくるのだから、せめてお茶請けぐらいは用意しておいて欲しい。休憩室に入って高級な和菓子であれば、その後の展開が物凄く楽になるものなのである。
②休憩室のトイレにタオルがない
休憩室で初めてトイレを使った時、タオルがないので右往左往してしまった。ここのトイレを使った人はどうやって手を拭いているのだろう。これは謎である。
③社員の道案内が全くなっていない
ライフケア蘇我会堂は駅から1分の所にあるので、お客様から道を訊かれた時、逆に答えることができないのである。このことに関しては参列者たちの多くから苦情があった。
④余ったジュースを持ってくれば良かった
お通夜の会食の際にジュースが大量に余ったのだが、これを休憩室に持ってくれば良かった。お通夜で動きまくって喋りまくって喉が渇いているのに、そこに空調を利かしたために喉がやられてしまったのである。
⑤お菓子をライフケアに置いてきてしまった
導師の控え室にお菓子を用意したのだが、そのお菓子を忘れてきてしまった。チョコがあったために、これは実に惜しいのだ。まあ、これはライフケアの社員たちへのプレゼントになってしまった。
⑥道を間違えた
ライフケア蘇我会堂からの帰途、道を間違えたのは、その後、数日間に亘って俺を落ち込ませた。俺自身、父親を亡くしたことで完全に動揺しまくっていたのだ。葬儀屋の方々に言っておくけど、遺族に道を訊いてはならないと思う。事前に地図で道を確かめた方が良い。
⑦お葬式で笑いを取れなかった
俺は葬式が始まる前にブラックユーモアを大量に用意していたのだが、このブラックユーモアを披露しても誰も笑わなかった。俺にとっては、これは非常にきつかった。笑ってくれれば、俺の悲しみも紛れた筈だからだ。
葬式は本当に「一期一会」だと思う。父親の葬儀は一生に一回しかできないのである。俺の父親は俺が若くして死んでくれなくて本当に良かったと思う。俺もいい年齢になったからこそ、父親の死を冷静に受け止めることができたのだと思う。
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コメント
タマテイーさま
御尊父様のご逝去心よりお悔やみ申し上げます。
若くしての死ではなくよかったとのこと、本当にそうですよね。しかしながらもっと長生きして欲しかったですよね。
どうかお心落としの無いように、そしてお母様を支えてさしあげて下さいね。私は父を高校生の時病気で亡くし30年たちます。今でも父の最期を思い出します。
投稿: ぱちゃ | 2012年12月27日 (木) 23時57分
タマティーさまのブログ、毎回勉強になります。
お辛い中にもかかわらず発信してくださっていたとは、
言葉もありません。。。
いつも変わらず貴重な情報をありがとうございます。
うまく言えませんが、どうぞお身体だけには気をつけてください。
ご冥福を心よりお祈りします。 合掌
投稿: アクアブルー | 2012年12月28日 (金) 08時04分