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『独裁者のためのハンドブック』 ~権力支持基盤理論の凄さ~

●こては現代の『君主論』だ!

 俺がアメリカ人の書いた本を読む場合、その作者はアングロサクソン系かドイツ系が殆どである。アメリカ合衆国はアングロサクソンによって作られた以上、多様な民族がいても、未だにアングロサクソン系が政治的にも文化的に優位に立っている。ドイツ系は近代以降のドイツが急成長したために、一気に文化レベルが上昇し、それでアメリカ合衆国に移民してきても、アメリカ国内で上位に食い込むことができたのである。

 しかしアメリカ人の本を読んでいてつくづく嫌になってしまうのが、何を読んでもキリスト教が付いて回るということだ。イギリス人はイギリス国教会があるためか、キリスト教には意外と冷静で、距離を保っているのだが、アメリカ人は宗教熱心ゆえにどうしてもキリスト教が付いて回るのだ。そうなるとどうしても書物のレベルを上げることに制限がかかってしまい、古典と称される部分まで上がっていかないのである。

 そんな中、思わぬ書物を発見してしまった。著者はブルース・ブエノ・デ・メスキータという。これはアングロサクソン系でもドイツ系でもなく、スペイン系の名前である。「メスキータ」とは「モスク」のことで、以前はイスラム教徒だったが、スペインの国土回復運動を受けてイスラム教からキリスト教に改宗したのが彼のご先祖ということになる。

 この人物の祖先は恐らく「隠れユダヤ教徒」だったろうと思う。ユダヤ教徒といっても、現在のユダヤ教の殆どを占めるアシュケナジ系の改宗ユダヤたちではなく、スファラディ系の生粋のユダヤである。彼の顔は爬虫類にそっくりなので、先祖は生粋のユダヤ以外に考えられない。

 今回紹介するのはこの本!

 ブルーノ・ブエノ・デ・メスキータ&アラスター・スミス著『独裁者のためのハンドブック』(亜紀書房) 

 四本健二&浅野宣之訳

 独裁者のためのハンドブック[ブルース・ブエノ・デ・メスキータ]

 この本は題名のセンスが抜群である。これほど立派な題名なら、スラスラと書いて行くことができる。当然に内容もしっかりとした物になる。俺はこの本を読んで、「これは現代の『君主論』だ!」と叫んでしまったくらいなのである。独裁政治や民主主義がどのようなものなのかは、この本を読めば簡単に解ってしまうのである。

 メスキータはキリスト教徒が持つ甘さがまるでない。キリスト教徒ならアガペーがどうのこうの言い出して来るために、いざ本を書いても甘さがモロに出てしまうのである。独裁政治にも民主主義にもドライになって見ているのであって、だからこそ正論が書けるのである。

●権力支持基盤理論

 メスキータは「権力支持基盤理論」という学説に基づいて論理を構築していく。政治の本質は或る者が政治権力を獲得すること目指し、そして手に入れた政治権力を長く維持することだと彼は言い切る。その上で1人で国家を支配できる独裁社はいないという前提に立って、独裁者の支配を支える人々を3つの種類に分類する。

①名目的有権者

 名目的有権者とは独裁者となる支配者を選出する権利を理念上制度上に於いて認められている人々である。独裁者は国民の支持の上に成り立つのである。しかし独裁者にしてみれば、国民の意見など無視してもいいのであって、国民の意見を聞くのではなく、国民を取り込むことをしなければならない。

②支持団体

 名目的有権者の上に支持団体がある。独裁者は支持団体の言う意見には従わねばならず、彼等の好む政策を実行していかなければならない。独裁者の政治がスムーズに進むのは、独裁者が支持団体の言うことを聞いているからなのである。

③盟友集団

 支持団体の上に立つのが盟友集団である。盟友集団とは具体的に「政党」であり、「閣僚」であり、「軍の幹部」たちである。彼等の支持なくして独裁者の支配は絶対に成り立たない。だから独裁者は彼等を大事に扱っていかなければならない。

 権力支持基盤理論を使うと、ごちゃごちゃしていた政治の世界がスッキリと理解できるようになる。まさにその通りなのであって、偉大な政治思想家たちが作り上げた理論に騙されてしまうからこそ、政治の現実が全く見えなくなってしまうのである。

●独裁者のための5つのルール

 独裁者には「独裁者のための5つのルール」というものが存在する。独裁者がこのルールを守っている限り、独裁政治を維持することができる。逆に言えばこのルールに背くと、途端に独裁政治が終了し、今度は自分が殺されることになってしまうのである。

①盟友集団はできるだけ小さくせよ

 独裁政治では盟友集団が小さいものなのである。盟友集団が小さいからこそ、独裁政治が可能なのである。不要になった者はどんどん降格して行く。政権にとって危険になりそうな人物は容赦なく粛清していく。そういうことをすることで少数精鋭にし、独裁政治を強固なものにしていくのである。

②名目上の集団はできるだけ大きくせよ

 独裁政治では普通選挙にしてしまった方がいい。国民に対して選挙を強制し、棄権した者を処刑して行く。どんなに酷い独裁政治であったとしても、国民の支持率が99%を超えていたら、国民の誰もが文句を言えなくなってしまうのである。

③財政をコントロールせよ

 独裁政治では国家財政は独裁者の物である。独裁者が財政をコントロールするからこそ、独裁政治は金銭的に可能な物となるのである。たとえ自分の部下であっても、財政に手を出してきた人物は問答無用で殺していかなければならないのだ。

④盟友には忠誠に足る分だけの見返りを与えよ

 盟友たちは独裁者のために命懸けで働く以上、それに見合う報酬を与えなければならない。盟友たちは巨額の報酬を受ければ、必死になって独裁者を支えるようになるので、益々独裁政治が強固な物になっていくのである。盟友たちが裕福な生活をするためには、独裁者はそれ以上に裕福な生活をしなければならないので、それで独裁政治では独裁者が凄まじいまでの裕福な生活をすることになるのである。

⑤庶民の暮らしを良くするために、盟友の分け前をピンハネするな

 独裁政治の命運を決めるのは盟友集団の支持だから、如何なることがあっても盟友の分け前をピンハネしてはならない。盟友は自分の取り分を奪われると、独裁者を暗殺してくる。これに対して庶民は政権を打倒するような行動を起こしてこない。たとえ庶民が暴動を起こしても、盟友集団が支持してくれれば、その難局を乗り切ることができるのである。

●政治に於いて善政をしたかどうかは関係ない

 政治に於いて善政をしたかどうかは関係ない。善政か悪政かというのは習慣的な評価なのであって、政治家にしてみれば政治権力を掌握し続けることができたかどうかの方が大事なのである。政権を維持できない政治家はどんなに善政を遣った所で無能者である。逆に政権を維持できた政治家は悪政をやったとしても有能な人間である。

 政治家であるなら政治権力の掌握を目指して盟友集団を作り上げ、政敵を倒しながら政治権力を掌握すべきなのである。そして盟友集団を使って政治権力を握り続ける。盟友集団が自分を支持している限り、政権を維持できるから、その上で自分がやりたい政治を展開すればいいのである。

 独裁政治の場合、就任してから1年以内は油断できない。「革命は必ず反動を生む」ものなのであって、反動が起これば自分が殺されることになる。だから自分が殺される前に反動分子を殺すべきなのであって、自分の政権を維持するためにはどんなにあくどいことをやっても構わないのである。

 独裁政治の利点は長期政権になればなるほど安定してきて、誰も革命を引き起こそうとしなくなるということなのである。それゆえ、長期的視野を持って政治を進めて行くことができ、独裁政治だと普通の政治ではできない政治業績を作り上げることができてしまうのである。

 政治の世界に於いて、政治権力者が頻繁に交代するほど、政治の損害を発生させるものは他にないのだ。政治権力者がちゃんとした政治を行うためには、或る一定の時間が必要なのであって、その時間すら与えないのなら、誰がやったとしてもまともな政治を行うことはできないのである。

●独裁も民主主義も実は同じ

 メスキータは権力支持基盤理論に基づいて、「独裁も民主主義も実は同じ」という驚くべき結論を出す。独裁と民主主義の違いは、盟友集団が小さいのか大きいのかの違いでしかない。たったそれだけのことなのであって、独裁が正しいわけでも、民主主義が正しいわけでもないのだ。

 民主主義でも有権者の意見が政治に反映されることはない。支持団体か盟友集団の意見しか採用されないのである。ということは、民主主義は独裁政治となんら変わらないということなのである。ただ民主主義は盟友集団が大きいために、政治権力者は交代可能なのであって、独裁者を必要としない。たったそれだけのことなのである。

 歴史的に見れば、国家を発展させるためには独裁政治の方が効果的である。建国間もない国家で行き成り民主主義をやれば大抵が国家を滅亡させることになる。しかし国家を安定させようと思えば、独裁者は不要になるのであって、独裁者のいない政治を目指さなければならないのだ。

 政治学は科学である。政治を科学的に研究していけば、その国の事情とか国民性とかは一切関係なくなり、政治に関して普遍的な結論を導き出すことができるようになるのである。政治をやれば、どのような国民であっても、みんな似たようなことをやる。だから政治のメカニズムが解ってしまえば、政治を正しく行うことができるようになるのである。

 政治思想家という人たちは、往々にして人間に対して過剰な期待を持ってしまいがちだ。この世には完全な人間などいないのに、完全な人間を想定しながら政治思想を構築していくのである。だから政治を正しく解明した政治思想を作り出せないのである。

 人間というものはいつの世で性悪なのであって、その性悪を踏まえた上で政治思想を組み立てていかないと、人々に政治に対して妄想を抱かせてしまうことになってしまうのである。妄想は所詮妄想なのであって、現実の政治に於いては有害な結果しか生み出さないのである。

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コメント

タマティー様

とても面白そうな本ですね!
一時帰国した時に買って読みます。楽しみです。

今いる国の周辺には独裁国家が多いのですが、国が安定するまでは民主主義を取り入れるのは危険なのですね。
その国々に影響力の大きいプーチン長期政権についても理解が深まりそうです。

タマティー様はクリミア問題についてどのようにお考えか、時間のある時にお聞かせいただけないでしょうか。
ウクライナはCIS脱退の手続きを開始し、欧米とロシアは対立を強めていて、世界経済にも影響が出そうですね。
アメリカあるいはロシアの凋落の引き金になるのでしょうか。

投稿: Ren | 2014年3月21日 (金) 01時58分

Renさん、この本は絶対にお勧めです!
タマティーが本を大量に読みまくって、「このメスキータって人は本当に凄い」という評価を出しているのだから、マジでそうなんです。
アメリカの学者たちの中でもメスキータは最高峰ですよ。

この本を読めば、Renさん自身、政治のことを良く理解できるだけでなく、旦那さんも仕事に大いに役立つ筈です。

今回の問題で、アメリカ合衆国は大したことをしてこないでしょう。
凋落の始まってわけでもないです。
ロシアは最終的にウクライナを併合すると思います。

投稿: タマティー | 2014年3月21日 (金) 06時48分

100%海水のお塩と天日塩って同じですか??
タマティーさん推奨の天日塩も持ってはいるんですが、料理につかうとなると粒が大きいので、もっと粒が小さくて、なおかつ体にいいお塩が欲しいんですが。。。
スーパーに、沖縄の100%海水のお塩が売っていたんですが、どう思いますか??

投稿: はるるん | 2014年3月21日 (金) 09時10分

はるるんさん、確かに調理の時は値段の高い物ではなく、値段が安くいい物を使った方がいいですね。

その塩で大丈夫です。

投稿: タマティー | 2014年3月21日 (金) 16時57分

素敵な書評ですね!タマティーさんは政治への素晴らしい洞察をお持ちだとお見受けします。(ただ、「ブエノ・デ・メスキータ」で一つの姓です。長ったらしいですよね。あと、弟子で共著者のスミスのほうも頑張ってますよ!)

投稿: がじがじ | 2014年3月26日 (水) 15時59分

がじがじさん、コメント有難うございます!
実に長い苗字ですね。
「デ」は貴族の称号かと思っていました。(汗)

確かに大きな盟友集団を作るのは難しいです。
盟友集団が小さい方が効率はいいですからね。
盟友集団が大きくなればなるほど効率は悪くなり、碌でもない奴も入ってきますから、

ま、選挙権を持つ国民は、
「絶対権力は絶対に腐敗する」
というアクトン卿の名言を絶対に忘れないようにして欲しいですよ。

投稿: タマティー | 2014年3月26日 (水) 17時07分

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