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直木賞物語

●嘗て大衆文学は本当にゴミレベルだった

 江戸時代後期、日本の文学は瀧澤馬琴の『南総里見八犬伝』という名作を生み出した反面、物凄く堕落してしまい、その負の遺産がそっくりそのまま近代以降に引き継がれてしまった。明治維新をやっても、文学の世界でなかなか近代的な小説が出て来なかったのはそのためなのである。

 純文学の方は日本の文学の伝統を引き続きつつ、シェイクスピアやロシア文学の影響を受けて近代化していくことに成功したが、大衆文学の方は或る意味捨てておかれた。状況が変わり出したのは講談社が講談を載せた雑誌『講談倶楽部』を創刊した辺りからであって、これによって大衆文学は一気に花開いたのである。

 しかしこの講談に基づく大衆文学は実にレベルの低い物であった。そもそも講談は講談として成立しているのであって、それを小説化するのには無理がある。しかも大衆文学を好んだのは低学歴の人々であって、彼等はまともな文学ではなく、娯楽として大衆文学を楽しんでいたのである。

 大衆文学に於いて圧倒的人気を得たのが、男性作家は「菊池寛」であり、女性作家「吉屋信子」であった。2人は断トツの人気であり、今で言う億万長者になっていたのである。ただ菊池寛や吉屋信子の小説を現代の我々が読むと、本当にゴミレベルの物なのであって、戦前の日本国民の民度の低さを思いっきり思い知らされることになる。

 菊池寛自身、大衆文学で大儲けしたが、この大衆文学のレベルの低さを痛感しており、そのため私財を投げうって直木賞を創設したのである。直木賞があればこそ大衆文学は徐々にではあるが向上していったのであり、この文学的功績は非常に大きい物があったのである。

 今回紹介する本はこの本!

 川口則弘著『直木賞物語』(パジリコ)

  直木賞物語 

 文藝春秋特別編集『芥川賞・直木賞150回全記録」(文藝春秋)

  芥川賞・直木賞全記録

●直木賞とは?

①大衆文学

 直木賞は大衆文学の作品に与えられることになる。大衆文学とはエンタメ系小説のことであって、文学作品の中でも通俗性の強い作品のことである。但し直木賞は大衆文学の作品に対して文学性を要求するのであって、ただ単に通俗性のある作品ではダメなのである。

②中堅作家に与えられるもの

 直木賞も芥川賞と同じく、当初は新人作家や新進作家に与えるものであったが、直木賞は歴史を積み重ねて行く間に、新人作家や新進作家ではなくなって、中堅作家に与えられる賞になってしまった。大体、作家デビューして10年以内を目安にすべきであって、余り早く取り過ぎてもダメだし、余り遅くにとってもダメなのである。

③リアリズムのある作品

 直木賞は大衆文学の中でもリアリズムのある作品に与えられることになる。このためSF小説には与えられない。ライトノベルにも与えられない。嘗て推理小説の作品が直木賞受賞するために大いに揉めたのは、推理小説はリアリズム的な表現をやりながら、作家本人が殺人事件を犯したことがないというリアリズムの欠如があったからなのである。

 直木賞は30代で貰うのがベストである。40代で貰うのはそれに次ぐ。20代では早すぎる。50歳以降では遅すぎる。直木賞が有難いのは、芥川賞のように作家デビューしてすぐに与えられるのではなく、作家デビューして暫く経った後に受賞するので、それで再加速でき、作家の生存確率を思いっきり引き上げてくれるのである。

 文学のことを余り解っていない人たちは「芥川賞と直木賞はどう違うんですか?」と訊いて来るものだが、俺は「直木賞受賞作家は文章が巧い作家だよ」と答えている。事実、そうだからだ。直木賞を受賞後にも活躍している作家はどれも文章が巧いものなのである。

●直木賞を変えた作家は誰?

 直木賞は作品ではなく作家に与えられる傾向が非常に強い。この作家はこれまでに実績があり、この程度の直木賞候補作品を書いてきたのだから、直木賞を受賞させてもいいだろうということで直木賞を受賞させてしまうのである。このため直木賞受賞作品で出来のいい物は非常に少ない。

 芥川賞と直木賞は同時に発表されるものだが、芥川賞受賞作品の方がベストセラーに成り易いのは、芥川賞の方は作品で選んでいるからなのである。旋風は常に芥川賞の方から起こっているのであり、決して直木賞からではないのだ。

 その直木賞も出版不況の中で質が上昇していった。一体誰が上昇させたのかというと、髙村薫の『マークスの山』から直木賞受賞作品は質が一気に向上した。これ以前の作品はみな大したことはない。この作品には動機という点で致命的な欠陥が存在するのだが、それでも推理小説の持つリアリズムが直木賞に変化を引き起こしたのである。

 この流れに続いて宮部みゆきの『理由』も東野圭吾の『容疑者Xの献身』も直木賞を受賞し、質の向上に貢献した。これら全員が全員、推理小説作家なのである。推理小説家は殺人事件をやったことがないにも拘わらず推理小説を書くので、どうしてもリアリズムを装いながらリアリズムが欠如するということを仕出かしてしまうのだが、この中途半端なリアリズムが直木賞を変えて行ったのである。

 芥川賞の場合、石原慎太郎や村上龍や金原ひとみや綿矢りさというスター作家が出て来て芥川賞を大ブレイクさせてしまったのだが、直木賞の方にはこういうスター作家がいないのである。中堅作家に受賞させるために衝撃力が不足してしまうのかもしれないが、質の高い作品が直木賞を受賞するようになっている以上、大ブレイクすれば日本文学史にその名を残すような作品になる筈なのである。

●通俗性と文学性の戦い

 直木賞の歴史は「通俗性」と「文学性」の戦いの歴史であった。大衆文学という物は通俗性を持っているが文学性を持っていない。しかし大衆文学のレベルを引き上げるために直木賞を設けた以上、文学性のある大衆文学に直木賞を受賞しようとしてきたのである。

 ところが実際にやってみるとこれが難しく、大衆文学に文学性を強調すると、読者離れが起こってしまい、読者たちが面白いとは思わない作品が直木賞を受賞してしまうのである。こういうことをやれば直木賞の価値がどんどん低下して行くのは当然である。

 かといって、文学性はないが、通俗性のある大衆文学作品に直木賞を与えてしまえば、直木賞の存在価値自体を失ってしまうのである。直木賞では世間に於いてベストセラーになっていた作品に対して敢えて受賞させたなかったこともあるが、これはこのことを端的に表しているのである。

 更に問題を悪化させたのは、選考委員に適切な人材が選ばれていなかったことであった。例えば国民的作家である「松本清張」と「司馬遼太郎」は直木賞に選ばれたが、この2人がいた時期は優れた作品に直木賞を与えていないのである。ベストセラー作家であっても、鑑識眼があるかは別なのであって、鑑識眼のある作家を揃えていかなければならないのだ。

 最も酷いのは「井上ひさし」で、彼は選考委員としての能力を何も持っていない。放送作家上がりの人は、どうしても「面白ければいいだろ~」と考えてしまうので、直木賞に於いて通俗性と文学性の矛盾が激しくなっていることを何も解っていないのである。

 この点、「五木寛之」と「渡辺淳一」は選考委員として非常に高い能力を持っていた、通俗性と文学性の矛盾はその矛盾を克服してしまうよりも、通俗性を持ちつつも、文学性を加味して行くという遣り方を行っていかなければならないのである。

●直木賞の対抗勢力「本屋大賞」の登場

 直木賞は作品ではなく、作家に与えられると言われている。選考委員たちは「この作家はこれだけの経歴があり、この程度の作品が書けるのだから、直木賞を与えてもいいだろう」として直木賞を与えてくるのだが、こうなると直木賞受賞作品はそんなにレベルの高い物ではなくなってしまう。

 それで文学ファンたちから激しい不満が生じ、それが「本屋大賞」を生み出してしまったのである。本屋大賞は書店の店員たちが選んでいるので、ベスト10の中に入れば、大衆文学作品としては実に楽しめるものである。このため直木賞に対して強力な対抗勢力になってしまったのである。

 しかし本屋大賞を貰っても作家として生き残っていけるかは難しい。ベストセラーになったからといって、作家として生き残れる訳ではない。直木賞にはまだまだ価値があり、直木賞受賞作家は文章が巧い以上、小説を地道に書いて行けば確実に生き残ることができるのである。

 直木賞と本屋大賞の戦いは長らく続くと思う。出版不況ゆえにスター作家を生み出していかないと、書店は存続して行くことができないからだ。今までの直木賞のように、別に大した作品ではない物に直木賞を与えて行くようなことは、今後、絶対にすべきではないのだ。

 直木賞は髙村薫以降レベルが上がったのだから、髙村薫以前に直木賞を受賞をした作家たちは選考委員を辞めるべきであろう。作品の良し悪しを見抜く力がない以上、いつまでも選考委員に居られては困るのである。それに直木賞候補作品を5つにするのではなく、本屋大賞に対抗して10作品とかしてより多くの作家たちを直木賞に巻き込めるようにしていかなければならない。そういう地道な改革が直木賞の価値を高めて行くことになるのである。

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