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宮崎賢太郎著『カクレキシリタンの実像』 ~隠れキリシタンは実は普通の日本人たちだった~

●嘘は更なる嘘を呼ぶ

 学問は理性だけで成り立つものではない。理性と共に倫理が必要なのであって、その中でも「知的正直」という倫理が最も大事に成って来る。学問に対して嘘をつかない。常に正直で有り続ける。これは当たり前であると思えるかもしれないが、実際の学問の世界では平気で嘘を言う人たちが存在するのである。

 例えば「隠れキリシタン」の話なども嘘の塊のような話である。江戸時代の日本に隠れキリシタンがいた。その隠れキリシタンたちは明治維新後、キリスト教が解禁になってカトリックに改宗したのだが、自分たちの信仰している宗教とは違うと言って、カトリックをやめてしまった。

 これが歴史的事実である。

 とするなら、隠れキリシタンたちはキリスト教徒ではなかったということになる。

 しかし日本のキリスト教徒たちにとってこのことは受け入れ難く、隠れキリシタンたちはキリスト教徒だったということにしてくれないと、自分たちの信仰を維持することに貢献してくれない。自分たちがキリスト教を信仰するに当たって、信仰を貫き通したと手本になる人たちが必要なのである。

 そこで隠れキリシタンのことに関しては嘘を言いまくり、嘘は更なる嘘を呼んで、歴史的事実とは全く異なる状態になってしまった。隠れキリシタンのことに関しては、嘘出鱈目の本ばかりであり、作者が現地に行って調査もせず、ただ過去の文献を調べて書いた物だから、基本的に全部同じである。

 今回紹介する本はこの本!

 宮崎賢太郎著『カクレキリシタンの実像』(吉川弘文館)

 カクレキリシタンの実像[宮崎賢太郎]

 著者は隠れキリスタンの末裔で、現在、カトリックの信者である。東京大学卒なので文章は巧い。キリスト教徒ゆえに神道や仏教の理解は間違えているのだが、それでも真実に迫っている。しかし現在は長崎純心大学の教授なので実に勿体ない。これだけ真実に迫れる本を書くことができるのなら、もっと有名になってもいいからだ。学者だからこそ、どうでもいいような大学に居てはならないのである。

●なぜ戦国時代にキリスト教は広まったのか?

 戦国時代にキリスト教が伝来すると、キリスト教は急速に広まって、大体、日本の人口の3%ぐらいの人たちが信仰したのではないかと言われている。現在の日本のキリスト教徒たちは日本の人口の1%しか占めていないから、如何にローマカトリック教会による宣教が大成功したかが解る。

①政治的理由

 なんで神仏習合を行っていた日本人がそう易々と改宗してしまったのかというと、それは政治的理由が大きい。日本にキリスト教を伝えた修道会は宣教だけをやっていたのではなく、同時に貿易をも営んでいたのであって、その貿易が巨万の富を生んでいたのである。

 戦国大名たちにしてみれば貿易によってその巨万の富を得て、軍事費に充てたいので、それで改宗したのである。しかも改宗すれば家臣や領民たちにも強制的に改宗させたので、それで一気に改宗者数が増えたということなのである。

②仏教の新派だと勘違いされていた

 もう1つの理由は、当時のキリスト教はキリスト教だとは思われておらず、仏教の新しい宗派だと思われていたという理由がある。翻訳に当たって「デウス」を「大日如来」、パtラダイスを「極楽」、「キリスト教の教え」を「キリシタン仏法」とし、これで日本人たちは仏教だと思うので、それで大した抵抗なくキリスト教を信じてしまったのである。

 日本のキリスト教徒たちが当時のキリシタンたちを美化したい気持ちは解らなくもないが、当時のキリシタンたちは誰も聖書を読んでいなかったのである。一応、簡単な教義書が翻訳されたが、その出版部数は200部から2000部程度なのである。これでは殆どのキリシタンたちがキリスト教のことを何も知らなかったと考える方が妥当ということになってしまうのである。

③布教区

 ローマカトリック教会は布教区を設置して宣教したのも成功した理由の1つである。「豊後区」「下区」「都区」の三つに分けて宣教したのだが、この布教区で解ることは、西日本に限定して宣教したということなのである。日本は西日本と東日本では同じ日本人でも文化が違うので、西日本に限定したことは実に優れた判断であった。事実、キリシタンは東日本には殆どいないのである。

 三つの布教区の内、最も重点を置いたのは豊後区であり、キリシタン大名の大友宗麟が領内の神社仏閣を全て破壊して、キリスト教を徹底的に広めた。ローマカトリック教会は西ヨーロッパから長駆して宣教しに来ているのだから、こうやって戦力の集中を図りながら宣教しないと、絶対に成功することはできないのである。

●実際には隠れキリシタンはどうだったのか?

 豊臣秀吉はキリシタンたちに寛大であったが、長崎がローマカトリック教会の領地になっているのを見て態度を変え、キリスト教を禁止する方向に転換した。日本では織田信長の登場によって政教分離が進んでいたので、宗教団体が領地を持つというのは絶対に認めることができなかったなのである。

 江戸幕府が成立すると、キリスト教への禁止が徹底され、ローマカトリック教会は日本から全面的に撤退することになった。これによって日本にはキリスト教の聖職者たちがいなくなってしまい、それで隠れキリシタンなる者たちが発生したのである。

 キリスト教の聖職者たちがいれば、宗教活動はその聖職者たちによって指導されることになる。しかし聖職者たちがいなくなってしまえば、キリシタンたち自身が宗教組織を作らねばならない。それが逆にしっかりと隠れキリシタンたちを根付かせてしまったのである。

 だから隠れキリシタンたちの宗教組織と集落の政治的組織はセットである。このため宗門改めで隠れキリシタンたちが摘発されると、必ず集落ごとに摘発されてしまい、個人で摘発されることはなかった。江戸幕府の禁教令が隠れキリシタンを産んでしまったと考える方が解り易いのだ。

 では隠れキリシタンたちは一体何を信仰していたのかというと、「仏教の仏様」と「神道の神様」、そして「キリスト教の隠れ神様」の三つだった。ということは、神仏習合プラスキリスト教だったのであり、だからこそ隠れキリシタンたちは自分たちの信仰を維持し続けたのである。

 隠れキリシタンであることは危険が伴う。だったら棄教すればいいのだが、それをしなかったのは、「先祖の祟りが怖かったから」なのである。祟りである。キリスト教の専門用語ではなく神道の専門用語が出て来たのであり、ここでも隠れキリシタンたちをキリスト教徒だと考えるのには無理があるのだ。

 近代化が進むと、隠れキリシタンのような信仰形態は重たい負担なので、隠れキリシタンをやめる者たちが続出した。隠れキリシタンをやめた後にどうなかったというと、仏教に改宗するのが8割で、神道に改宗するのが2割で、キリスト教徒になるのは1%もいないのである。ここでも隠れキリシタンはキリスト教徒ではないということが解るものだ。

●なぜ日本でキリスト教は広まらなかったのか?

 隠れキリシタンのことを研究することは、ただ単に隠れキリシタンの実態を解明するだけでなく、「なぜ日本でキリスト教が広まらなかったのか?」を考えるに絶好の材料となる。

①キリスト教を頭で理解してしまい、心にまで落ちてこなかった

 俺から言わせて貰うと、日本のキリスト教徒たちはキリスト教を頭で理解してしまい、心にまで落ちて来なかったということなのである。特にプロテスタントの牧師たちに多いのだが、聖書を熟読しているがために、何かあれば聖書の文言を取り出して説教するので、これではなんの説得力も持たないのである。

 戦国時代では戦争で勝つか死ぬかの状況にあったのであり、キリシタン大名たちは戦争に勝つためにはキリスト教に改宗するという大きな動機があった。隠れキリシタンたちも禁教令によってキリスト教が禁止されたが、自分たちが宗教組織を作ることで集落を統制していたので、おいそれと棄教する訳にはいかない事情があった。

 神道系や仏教系の新興宗教団体は信者たちの心をしっかりと捉える何かをやったからこそ、キリスト教系の宗教団体よりも遥かに大きくなっていったのである。しかし日本のキリスト教徒たちはそれを直視せず、「日本人は無宗教だ」と全く勘違いなことを言い出して、それで自分たちの失敗を認めようとしないのである。

②先祖祭祀を完全に無視してしまった

 隠れキリシタンたちがやっていたことは基本的には先祖祭祀である。神道も仏教も先祖祭祀をしているからこそ、信者たちを確保し続けることができているのであって、キリスト教のように先祖祭祀をしないと、キリスト教を広めるのにはかなり問題があるということなのである。

 世間では「キリスト教に改宗すると3代で家が絶える」と言われるが、まさにその通りであって、先祖祭祀を何もしていないのだから、隠れキリシタンが言うように先祖の祟りで家が絶えてしまうのである。キリスト教自体は家を絶やすことで勢力を拡大してきたのだが、信者たちにしてみればそれは困るのである。

③宗教混淆を理解しなかった

 日本は神仏習合の国で、宗教混淆をやっている。宗教混淆の世界では、自分たちの宗教が絶対に正しいと思っても、それを口に出したりしてはならない。大事なことは争うことではなく、他の宗教をどう取り込んで行くかなのである。仏教は神道を巧く取り込むことで、日本での土着化に成功したのである。

 日本のキリスト教徒たちは宗教混淆を絶対に認めないのだが、その頑なな態度が信者数1%止まりにしてしまっているのである。確かに日本でも宗教混淆を認めない宗教団体はあった。浄土真宗や創価学会やオウム真理教などは宗教混淆をやらなかったが、これらの宗教団体は全部が全部、社会問題を引き起こした宗教団体であるのだ。

 宗教混淆に関しては、隠れキリシタンたちは遥かに悧巧だった。キリスト教を巧く取り込み、日本の土着化に成功させていたのである。だからキリスト教だって宗教混淆をやれば必ず日本に於いても広まるのである。勿論、これは教義上重大な問題を発生させる。しかし日本でもキリスト教の信者が人口の1%という現状がある以上、このまま放置しておけば信者数が徐々に減少して行ってしまい、最終的には消滅してしまうものなのである。

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