通字の研究 王侯貴族編
●通字とは何か?
「通字」とは人の実名に於いて先祖から代々付けられる文字の事である。起源は中国になり、「諱」で「忌字」を避けるために、逆に氏族内で「共通の文字」を定めて、その文字を諱で使用したが始まり。中国では南北朝時代から始まった物で、それが日本では平安時代から広まっていった。
運命学の研究をやっている者としては、
「通字は非常に危険である」
と言わざるを得ない。家族内で通字をやってしまうと、死者が出たり、それだけでなく、共倒れが発生してしまうからだ。
日本では天皇家も貴族も武士たちも全員「通字」をやる習慣があったので、それで近代化以降、庶民の間にも通字が広まってしまった。先祖が公家とか武家とかなら通字をやる習慣があっても、先祖が庶民だというのに通字などすべきではないのだ。通字はそれをやる必要性があるからこそやっているので、ただ単に思いつきでやっているのではないのである。
まず儒教では通字というのを禁止する。家族内で通字を使えば、「父子の親」や「長幼の序」を崩す事に成るので、それで通字はダメという事に成る。ところが日本では儒教を本格的に受け入れなかったので、通字は儒教の裏付けを得た物に成ってしまった。だから通字は儒教なくして使用してはならないものなのである。
なんでこんな「歴史の逆説」が生じてしまったのかといえば、日本の歴史学では氏族制社会が大宝律令の制定と同時に終わったとされているのに、実は律令制と並行する形で氏族制社会は生き延びていたのであって、それで儒教と通字が結びつくという、中国では絶対に有り得ないような事が起こったのだ。
●天皇家の場合
天皇家の場合、通字は「仁」になっている。
睦仁→嘉仁→裕仁→明仁→徳仁
文仁
「仁」は儒教的に言えば「人を愛する事」であり、天皇は君主だから一視同仁で以て国民に接する事に成る。仁があればこそ歴代の天皇たちは全て戦争に反対してきたし、戦没者たちの慰霊を盛んに行っているのである。戦後の学者たちのように「戦前は国家神道があって」なんて言っていると、天皇家がしっかりと儒教を奉じてきた姿が全く見えなくなってしまう。
「仁」は訓読みで「ひと」だから、神道的には「霊の留まる者」という意味になり、はっきりと言ってしまえば「「現人神」を意味する事に成る。天皇は「人神」ではないが、「現人神」なのであって、皇祖皇霊の神霊を有する者なのであり、昭和憲法体制の洗脳によって「昭和天皇は人間宣言を出したじゃないか!」と反論してくる者は、自分が洗脳されている事に全く気付いていないのである。
日本に於ける通字というのは、飽くまでも儒教と神道が習合した産物なのであって、なんの宗教的背景なしに存在している物ではない。天皇家は明確な理由があって通字を用いている。だから天皇は立憲君主として存在し続ける事が出来たし、今後も天皇制は揺らぐ事がないであろう。
しかし通字が全て良いとは限らない。明治天皇の時には日清戦争と日露戦争が、昭和天皇の時は支那事変や大東亜戦争が起こっている。大正天皇の時は関東大震災が起こり、今上天皇陛下の時は阪神淡路大震災と東日本大震災が起こっている。このパターンで行くと。皇太子殿下が天皇に即位すると、日本は戦争をしなければならない事に成るであろう。
天皇家は親子が皇居内に同居していない。通字を使用すると、親子共倒れが発生する事も有り得るので、それでその危険性を防ぐために同居をしていないのである。但し、東宮御所のある場所が悪く、東宮御所の北西に創価学会の本部や慶應義塾大学の医学部があるので、それで国政では公明党が想像以上に強く、慶應卒の人たちが学閥を振り翳して来るのだ。
●平氏の場合
平氏の場合、通字は「盛」になっている。
正盛→忠盛→清盛→重盛→維盛
基盛 資盛
宗盛
知盛
重衡
知度
徳子
盛子
平氏の氏長者になるためには名の二番目に「盛」が必要だが、それ以外の人たちは必ずしも必要とされていない。平氏は一族の結束が固いと同時に、様々な人材はいたのはそのためであろう。かといって、通字を連続させていくと、権力が減少していくので、それで平氏は滅亡してしまったのである。
「盛」は儒教的に言えば「盛徳」であり、「盛徳」とは「盛んな徳」「高く優れた徳」を意味する。平氏が院政に巧く取り入りつつ、日本初の武家政権を築き上げたのはこのためである。徳を表すためには戦争も辞さないのであり、それで戦争にも強かったのだ。尤も平氏たちが貴族化してしまうと、戦争にはからきし弱く成り、それで源氏の反攻が始まると、連戦連敗をし続けてしまったのである。
「盛」は神道的に言えば「守」であり、それで厳島神社に寄進しまくったりしている。もしも平氏が藤原氏を真似て、自分達の一族から神職者たちを輩出していれば、平氏の運命は随分と変わった事であろう。日本を支配していくためには、宗教を押さえていく事が絶対に必要なのだが、下手に自分たちは武家であるという意識を持っていたので、それが解らなかったのである。
「盛」の本来の意味は「皿に農作物を満たして神への捧げ物とする」という意味なので、平清盛が出家して入道になってしまったのは、これこそが致命的なミスという事になる。平氏は仏教とは縁のない人たちなのであって、それなのに仏門に帰依してしまったからこそ、平氏は滅亡してしまったのである。
平清盛は当時権力を持っていた仏教勢力に対して抑制に努め、必要とあらば仏教寺院の焼き討ちを行った。これによって「仏敵」とされ、平氏の悪評は決定的になってしまったが、この政教分離路線は鎌倉幕府に引き継がれ、織田信長の安土宗論で、政教分離は決定的に成る。だから日本史に於いて画期的な人物であったのである。
●源氏の場合
源氏の場合、通字は「義」になっている。
義家→義親→為義→義朝→義平
朝長
頼朝→頼家
範頼 実朝
義経
源氏の通字の使い方は法則どおりではない。義家と義親は法則どおりなのだが、為義は通字が二番目に来て、義朝は通字が一番目に戻っている。だから源氏は平氏に遅れを取ったといえる。通字では名の二番目の字を名の一番目の字にする事は非常に危険なので、それで義朝は平治の乱で横死し、源氏は雲散霧消してしまった。
「義」は儒教的に言えば「正義」であり、源氏は戦争に正義を要求したからこそ、戦争には強かった。「義」は「君臣の義」でもある以上、それで御恩と奉公の関係が形成され、それが鎌倉幕府を作り上げていく事に成る。平氏では義を重んじないから、それで幕府を作り出す事はなかったのである。
「義」は神道には「葦」「良し」「吉」などを意味する。葦はどこでも成長するがゆえに、源氏は全国各地で繁栄していった。良い事をするよう求められているからこそ、義平のように「鎌倉悪源太」と名乗ると殺されてしまう事に成る。吉によって幸運が得られ、それで義朝は死んでも、息子たちが生き残る事が出来た。
義朝は自分の息子たちに義平には「義」を、頼朝には「朝」を与えている。頼朝はこれに倣って頼家には「頼」を、実朝には「朝」を与えている。しかしその結果は親子共々全員殺されてしまうという最悪の事態になってしまった。通字の場合、1つでいいのであって、2つもやるべきではないのだ。
●通字の功罪
通字は神道と儒教なくして有り得ない物であって、神道と儒教を奉じているのなら、通字を使ってもいい。しかし通字には長所があると同時に短所もあるのであって、使い方を誤ると非常に危険であるという事だけは知っておいた方がいいだろう。使い方を誤ると死者が出るからこそ、何も知らないで通字を用いるべきではないのだ。
通字の良い点は「一族の結束が得られる事」である。一族の者たちがバラバラではなんの威力も発揮できないが、纏まれば歴史を変えるほどの力を得る事が出来るのである。しかも「一族の理念」が通字を通して伝えられる事に成るので、それでその一族は確実に繁栄していく事が出来るように成る。
しかし通字には欠点もあって、「一族が多彩な人材を有しない」のであって、それで足りない人材を他の一族から用いなければならない。だから結婚によって他の一族を取り込んで行かなければならず、結婚相手を間違えたり、離婚しているようでは、いずれ人材不足が決定的に成ってしまうのだ。
通字の恐ろしい所は一族で骨肉の争いを始めて殺し合ったり、一族が全滅してしまう事があるという事であろう。平氏は栄耀栄華を極めたのに滅亡してしまった。源氏も鎌倉幕府を作り上げたのに3代で滅亡してしまった。天皇家が存続しているのは、通字を名の二番目だけに用いている事であって、しかも結婚すればすぐに皇居から追い出すという事をやっているからである。
偉大な事業であればあるほど、一代で成すのは不可能であり、何代もかけて行っていかないと、決して達成する事が出来ない。自分たちの一族が何か特定の事業に取り組んでいるのなら、通字は使用しても別に問題はない。しかし特定の事業がないなら通字など用いるべきではないのだ。
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