「ラブコメ」ではなく「嫐り萌え」
●ラブコメなのか?
『からかい上手の高木さん』を「ラブコメ」とすると、疑問符が付く。
まず主人公とヒロインは付き合っていない。
ヒロインは恋をしているかもしれないが、主人公は好きという感情を打ち消してしまう。
甘く取れば、半分はラブコメの範疇に入る。
しかし残りの半分は、明らかにラブコメから食み出す。
「ラブコメとは、恋愛を主題にしたコメディの事を言う」。
という事は、『からかい上手の高木さん』は主題が違う。
「じゃあ、主題はなんなんだ?」という事になる。
●「嫐り萌え」に「嫐られ萌え」
主題は、
「嫐り萌え」に「嫐られ萌え」
である。
高木さんは西片の事を好きだからこそ、嫐る。
西片は嫐られる事でストレスを感じるかもしれない。
しかしそれで快感を感じ、愛情を持てるようになっていく。
『からかい上手の高木さん』は新ジャンルを切り開いたといっていい。
この事に、作者自身、気づいていない。
編集者も出版社も気づいていないのだ。
●「嬲る」と「嫐る」の違い
「嬲る」も「嫐る」も、発音は同じ「なぶる」。
しかし使っている漢字が違うと意味が異なる。
「嬲る」とは、男性が女性に付きまとい、戯れる事を言う。
「嫐る」とは、女性が男性に付きまとい、戯れる事を言う。
男性が女性を嬲ると、肉体的に嬲るので、それで「SM」が出て来る。
女性が男性を嫐ると、言葉で嫐る。
しかし、それを示す言葉がない。
ないなら作ればいい。
「嫐り萌え」「嫐られ萌え」という言葉を作れば、フィットする事になる。
●「イジメ」と「イジリ」の違い
高木さんは1日数十回も西片をからかっている。
客観的に見れば、イジメである。
「イジメ」と「イジリ」は違う。
この区分けは吉本興業で生まれたので、俺は「吉本基準」と呼んでいる。
イジメは一方的であり、イジメられている方が拒否しても、イジメる方は攻撃してくる。
対して、イジリは相手を弄るが、弄られている方は反撃できる。イジリによって、双方が利益を得られる。だからイジメではなくなる。
愛情があるから弄るのであって、愛情なしで弄れば、イジメであろう。
要は愛情があるか否か?
だから、イジメは最終的にはやられた方の主観的判定になる。
●付きまとっても、ストーカーにならない理由
客観的に見て、高木さんはストーカーである。
趣味が散歩なので、散歩エリアに西片が入っていけば、出会う事になる。
付きまとっても、ストーカーに成らない理由は、
「同級生であるという、人間関係が存在する事」
「会話が存在する事」
「一緒にいて、嫌じゃない事」
の3つの理由が存在するからである。
これも要は愛情があるか否かなのだ。
愛情なしで付きまとわれたり、過剰な愛情で付きまとわれたりすれば、それはストーカーなのである。
●高木さんに潜む「妹的な要素」
実をいうと、作者の山本崇一朗は、
『ふだつきのキョーコちゃん』
を描き始めた後に、
『からかい上手の高木さん』
を描き始めている。
妹が欲しかったので、キョーコちゃんは妹として描いた。
『からかい上手の高木さん」の設定は、「女子中学生と子供」。
同級生なんだけど、精神的に高木さんは女子中学生で、西片は子供だから、その格差を利用してエネルギーを生み出す。
それなのに、高木さんは突如として妹っぽくなる時がある。
キョーコちゃんの影響を受けてしまったからだ。
作業場が同じだと、2つの作品を並行して作ると、影響を受けてしまったりする。
作品ごとに作業場を替えれば、そういう混入はなくなる。
西片は兄で、高木さんは妹だから、恋愛に発展しないのに、じゃれあう。
嫐られても、ホッとする理由は、偶然に生まれたと言っていい。
変な世界に行かないのも、それが兄と妹という制約があるからだ。
●西片の冒険旅行
西片は子供から大人に成らない限り、高木さんと恋愛する事はできない。
男の子は「冒険旅行」をする事で、大人になっていく。
高木さんは一切出て来ない話を、10話分くらい必要だろう。
1巻まるまる冒険旅行に当てる事になる。
高木さんは、なんで、好きな人をからかってしまうのか?
西片は大人になって、高木さんの心の闇を撃破殲滅する。
高木さんはどうも一人っ子のようである。
しかし妹的な要素があるという事は、兄か姉がいたという事になる。
高木さんが好きな人をからかってしまうのは、そこに原因があると見ていい。
●文化レベルが高くないと嫐れない
嫐りをうまくやるためには、文化レベルが高くないとできない。
家族内で濃厚な会話がなされている事は絶対条件である。
如何なる人でも、家族内で会話がなされていないと、薄っぺらい会話しかできない。
作者の山本崇一朗は、香川県の小豆郡土庄町出身である。
島育ちだからこそ、家庭環境が非常に良かったのであろう。
大学は京都精華大学芸術学部卒。
「やはり京都か~」という事になる。
これだけハイレベルの作品を描けるという事は、
東京か京都か大阪の大学に行っていた人でないと出来ない。
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